育児休業から復帰した社員の「外勤→内勤」への配転をめぐる重要判決が、東京高等裁判所から下されました。配転に伴い固定残業代が支払われなくなったことが「不利益取扱い(パタハラ)」として違法・無効と判断されたものです。企業の経営者・人事担当者が知っておくべき育休復帰時の人事異動の法的ルールを、西宮の社労士が解説します。
この記事でわかること
- パタハラ(パタニティハラスメント)とは何か
- 育休復帰後の「外勤→内勤」配転がなぜ違法になるのか
- 固定残業代と不利益取扱いの関係
- 1回目と2回目の異動で判断が分かれた理由
- 企業がとるべき具体的な実務対応
事件の概要
東京都内に本社を置く住宅設備の大手企業で働く男性労働者が、育児休業から復帰した際に命じられた配転(外勤職→内勤職)を不服として訴えた裁判です。
東京高等裁判所(伊藤繁裁判長)は2026年、一審(東京地裁)の「外勤職から内勤職への異動は違法・無効」という判決を維持し、企業側の控訴を棄却しました。
「不利益取扱い」と判断された理由——固定残業代がなくなった
この裁判で裁判所が最も重視したのは、配転後に「固定残業代」が支払われなくなったという事実です。
「異動に伴い外勤職を支給対象とした固定残業代が支払われなくなったのは不利益取扱いと評価せざるを得ない」(東京高裁)
育児・介護休業法第10条は、育休取得を理由とした「不利益取扱い」を明確に禁止しています。配転という人事上の措置が、実質的な賃金減少(固定残業代の消滅)を招いた場合、それは「不利益取扱い」にあたるという判断が示されました。
1回目と2回目の異動で判断が分かれた
この事件では、育休復帰後に2回の異動がありましたが、裁判所の判断は異なりました。
| 異動の時期 | 内容 | 裁判所の判断 |
|---|---|---|
| 育休復帰直後の1回目の異動 | 外勤職 → 内勤職(固定残業代が消滅) | 違法・無効(不利益取扱い) |
| 復帰後3カ月で行われた2回目の異動 | 年度初めの定期異動 | 有効(不利益取扱いに当たらない) |
2回目については「年度初めの定期異動と認められる」として、育休との関連性がないと判断されました。つまり、問題となるのは「いつ・なぜ異動させるか」という点です。
企業が命じられた支払い
- 固定残業代の支払い(消滅した分の全額)
- 慰謝料20万円の支払い
パタハラ(パタニティハラスメント)とは?
パタハラとは、育児休業を取得した(または取得しようとした)男性社員に対して行われる嫌がらせや不利益な扱いのことです。
女性に対する「マタハラ(マタニティハラスメント)」に対応する言葉で、政府が男性育休取得促進を強力に推進する中、企業のリスク管理上、極めて重要なテーマとなっています。
育児・介護休業法第10条が禁止する「不利益取扱い」には以下が含まれます。
- 解雇・雇い止め
- 降格・職種変更
- 減給・賞与削減
- 不利益な異動・転勤
- 有期雇用への切り替え
- 自宅待機・仕事を与えない
企業がとるべき実務対応
NG例(法的リスクのある対応)
- 育休復帰直後に外勤→内勤(または内勤→外勤)へ異動させ、賃金体系が変わる
- 育休復帰を機に役職・等級を下げる
- 育休中に後任を昇格させ、復帰者のポジションをなくす
- 「育休中に仕事がわからなくなった」として評価を著しく下げる
OK例(適法な対応)
- 本人の希望・同意のもとで役割変更・職場変更を行う
- 年度初めの定期異動の一環として全体の人員配置を見直す(育休との関連性が薄い)
- 育休前と同等またはそれ以上の処遇で復帰させる
- 復帰前に面談を実施して、本人の意向を記録に残す
育休復帰時の人事対応チェックリスト
- 育休復帰直後の異動は本当に必要か?業務上の必要性を説明できるか?
- 異動によって賃金・手当(特に固定残業代)が減少しないか?
- 異動の理由が育休取得と無関係であることを客観的に説明できるか?
- 復帰前面談で本人の意向を確認し、記録しているか?
- 育休取得者の処遇に関する社内ルール(就業規則・育休規程)が整備されているか?
まとめ
今回の東京高裁判決は、「育休復帰+収入減少を伴う配転=不利益取扱い(違法)」という原則を明確にしました。たとえ業務上の必要性があったとしても、育休復帰直後に固定残業代がなくなる配転を命じることは法的リスクを伴います。
男性育休の取得促進が進む中、企業は復帰後の処遇に関するルールの整備と人事担当者の法的知識の向上が急務です。
西宮・阪神間の企業の皆さまで、育休復帰時の人事対応・パタハラ防止規程の整備でお悩みがあれば、武田社会保険労務士事務所にお気軽にご相談ください。

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