職場復帰支援助成金とは?在職中に障害を負った従業員の復職を国が支援する制度
働いていた従業員が、病気や事故によって突然障害を負い、長期休職を余儀なくされた――。このような状況に直面した事業主は、「この従業員に戻ってきてほしい」「でも、どう職場を整えればいいかわからない」と悩まれることが多いのではないでしょうか。
そんなときに活用できるのが、職場復帰支援助成金です。この助成金は、在職中に障害(中途障害)を負った従業員が職場復帰する際に、事業主が行う職場適応措置を経済的に支援する制度で、JEED(独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構)が管轄しています。
中小企業なら月額最大6万円、最長12ヶ月間の支給を受けられるため、合計で最大72万円+研修費の助成が可能です。本記事では、この助成金の概要・要件・申請方法を社労士の視点からわかりやすく解説します。
「中途障害者」とは?この助成金が対象とする状況を理解しよう
職場復帰支援助成金が対象とする「中途障害者」とは、就職後に病気や事故などによって障害を負った労働者のことです。生まれつきの障害(先天性障害)ではなく、在職中に新たに障害が生じたケースを指します。
具体的には、次のような状況が想定されます:
- 交通事故による脊髄損傷で身体障害者になった
- 脳梗塞の後遺症で高次脳機能障害が残った
- うつ病・統合失調症等の精神疾患で長期休職後に復帰する
- 指定難病(潰瘍性大腸炎・クローン病等)の診断を受けて療養後に復帰する
このような従業員が、1ヶ月以上の休職を経て職場に戻る際、以前と同じ業務ができない場合でも、職務転換・業務調整・研修などを行いながら継続雇用するための支援が受けられます。
対象となる事業主・障害者の要件
①対象事業主の要件
以下の要件をすべて満たす事業主が対象です:
- 雇用保険適用事業所の事業主であること
- 対象となる障害者を1ヶ月以上継続して雇用していたこと
- 労働保険料の未納がなく、労働関係法令の重大な違反がないこと
- 支給要件確認申立書(様式第540号)を事前に提出していること
業種・規模を問わず、中小企業から大企業まで幅広く申請できます。
②対象となる中途障害者(従業員)の要件
職場復帰の日の時点で、下記の区分のいずれかに該当する必要があります:
- 身体障害者:身体障害者手帳の交付を受けた方
- 精神障害者:精神障害者保健福祉手帳の交付を受けた方または医師の診断書がある方(ただし、発達障がいのみを有する方は除く)
- 難病等患者:厚生労働大臣が定める疾病の診断を受けた方
- 高次脳機能障害のある方:脳損傷による認知機能等の障害がある方
また、次の条件も必要です:
- 1ヶ月以上の休職等を経て職場復帰する方(休業・欠勤・休職のいずれも可)
- 職場復帰後も引き続き雇用継続が見込まれること
- 事業主の親族(3親等以内)でないこと
支給額・支給期間
職場復帰支援助成金の支給額は、企業規模によって異なります。
| 企業区分 | 月額支給額 | 支給期間 | 最大支給額(職場適応分) |
|---|---|---|---|
| 中小企業 | 月額6万円 | 最長12ヶ月 | 最大72万円 |
| 中小企業以外(大企業) | 月額4.5万円 | 最長12ヶ月 | 最大54万円 |
上記の月額助成に加えて、職務転換に必要な研修や講習に要した費用についても、一定の割合で助成が受けられます(研修費加算)。研修費加算の詳細は、JEEDの都道府県支部にお問い合わせください。
中小企業の定義
中小企業かどうかは、業種・資本金・従業員数で判断されます:
| 業種 | 資本金または出資額 | 常時雇用する労働者数 |
|---|---|---|
| 製造業・建設業・運輸業その他 | 3億円以下 | 300人以下 |
| 卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
| サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
| 小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
支給対象となる「職場適応措置」の内容
この助成金は、単に「中途障害者を復職させた」だけでは支給されません。事業主が具体的な職場適応措置を講じることが必要です。対象となる措置の例を挙げます:
① 職場環境の整備・改善
- 作業スペースの改修(バリアフリー化、スロープ設置等)
- 業務フローの見直し・負担軽減のための作業分担変更
- 必要な補助具・支援機器の導入
② 職務転換のための研修・訓練
- 新しい業務を習得するための社内研修
- 外部機関(職業能力開発施設等)を利用した職業訓練
- OJT(On the Job Training)による職場内指導
③ 外部専門家との連携支援
- 職場復帰コーディネーター(産業医・カウンセラー)の活用
- 地域障害者職業センターのリワーク支援との連携
- 産業保健スタッフ・EAP(従業員支援プログラム)の活用
これらの措置を計画的に実施し、対象障害者を6ヶ月以上職場に定着させることが支給の前提条件となります。
申請の流れ(STEP別解説)
職場復帰支援助成金の申請は、措置を開始する前に受給資格認定を得ることが必須です。事後申請は認められないため、必ず事前の手続きを行ってください。
STEP1:事前相談・支援計画の策定
まず、申請事業所の所在地を管轄するJEED都道府県支部(兵庫県は兵庫支部:神戸市)に事前相談します。担当者に対象従業員の状況を説明し、どのような支援措置が対象になるかを確認します。
その後、医師や産業医等と連携して事業・支援計画書(助添付様式第80号)を作成します。
STEP2:受給資格認定申請
措置を開始する前に、以下の書類をJEED都道府県支部に提出します:
- 支給要件確認申立書(様式第540号)
- 障害者助成金受給資格認定申請書(様式第519号)
- 事業・支援計画書(助添付様式第80号)
- 医師の意見書(様式第580号)
- 助成金支給対象費用仕分表(助添付様式第75号-2)
提出部数は様式・添付様式が3部、その他書類が2部です。e-Gov電子申請も利用できます。
STEP3:職場適応措置の実施
認定を受けた後、計画に基づいて職場適応措置を実施します。措置の実施状況を記録し、支給請求に必要な書類を随時整備しておきます。
計画内容に変更が生じた場合は、速やかに変更届(様式第552号)または変更承認申請書(様式第551号)を提出してください。
STEP4:支給請求
所定の支給期間が経過したら、以下の書類で支給請求を行います:
- 障害者助成金支給請求書(様式第625号)
- 措置内容の内訳(助添付様式第86号)
- 支給対象者の時間額算定票(助添付様式第86号の2)
請求先はJEED都道府県支部です。原則として6ヶ月ごとに請求する形になります。
この助成金を活用するメリット
メリット①:経験豊富な人材の継続雇用を支援
中途障害者は、すでに自社のノウハウや業務を熟知した人材です。新規採用・教育コストをかけずに、貴重な人材を継続雇用できることは企業にとって大きなメリットです。助成金で復職にかかるコストを補填できれば、積極的に継続雇用を選択しやすくなります。
メリット②:障害者雇用率のカウント対象となる
職場復帰した中途障害者も、法定雇用率の算定対象に含まれます。2026年7月から法定雇用率が2.7%に引き上げられた中、既存従業員の継続雇用で雇用率を維持・改善できることは大きなメリットです。
メリット③:離職防止・職場定着率の向上
障害者雇用の課題のひとつが「定着率」です。職場復帰支援助成金を活用した丁寧な復職支援は、長期的な職場定着につながり、離職によるコスト(採用・教育費用)を削減する効果が期待できます。
メリット④:職場全体の合理的配慮文化の醸成
中途障害者の復職支援を通じて、職場全体が障害者への対応方法を学ぶ機会になります。合理的配慮の取り組みが職場文化として根付くことで、将来的な障害者雇用にも積極的に対応できる組織になれます。
注意点・よくある失敗
- 事前申請が必須:措置開始後に申請しても受給できません。必ず措置前に受給資格認定を受けてください
- 発達障がいのみの精神障害者は対象外:精神障害者でも、発達障がいのみを有する方は対象になりません
- 6ヶ月以上の定着が必要:措置を実施しても定着期間が6ヶ月未満だと支給されない場合があります
- 計画通りに実施しないと支給されない:認定を受けた支援計画と実際の措置が一致していることが必要です。変更の際は必ず届出を
- 親族雇用は対象外:事業主と3親等以内の親族を対象者にすることはできません
まとめ:在職中に障害を負った従業員を継続雇用したいすべての事業主へ
職場復帰支援助成金は、「従業員が障害を負っても、できる限り継続雇用したい」という事業主の想いを国が後押しする制度です。月額最大6万円・最長12ヶ月という手厚い助成により、職場環境の整備や職務転換のコストを大幅に軽減できます。
特に以下のような事業主に活用をお勧めします:
- 従業員が病気や事故で長期休職しており、復職の受け入れを検討している
- 中途障害者の職場復帰支援に何から手をつければいいかわからない
- 法定雇用率の達成・維持を検討しており、現有従業員の継続雇用を優先したい
- 2026年の障害者雇用率引上げ(2.7%)への対応を急いでいる
申請にあたってはJEED都道府県支部への事前相談が不可欠です。支援計画の策定・申請書類の準備・申請後のフォローまで、社会保険労務士がトータルでサポートすることもできます。
社会保険労務士事務所SR武田雅子
兵庫県西宮市|障害者雇用・助成金申請のご相談はお気軽に
お問い合わせはホームページのお問い合わせフォームから
※本記事の情報は令和8年8月時点のものです。制度の内容は変更になる場合がありますので、最新情報はJEED(高齢・障害・求職者雇用支援機構)の都道府県支部にてご確認ください。




