「うちは雇用契約書を渡しているから大丈夫」——そう思っている会社が、実は法違反を犯しているかもしれません。
厚生労働省がまとめた令和7年の監督業務実施状況(速報値)によると、労働条件の明示に関する違反件数が前年比約3割増の1万9,049件に達したことが明らかになりました。これは2年連続の増加であり、送検件数も31件(前年比10件増)と厳しい傾向が続いています。
なぜ今、違反が急増しているのか?それは令和6年(2024年)4月1日に施行された改正労働基準法施行規則によって、雇用契約書や労働条件通知書に記載しなければならない項目が増えたからです。
この記事では、改正の内容から具体的な対応策まで、西宮市の社会保険労務士事務所の視点でわかりやすく解説します。
1. 令和7年の定期監督実施状況(速報値)の概要
全国の労働基準監督署が事業場に立ち入り調査する「定期監督」等の結果が速報値として公表されました。
| 項目 | 令和7年(速報) | 前年比 |
|---|---|---|
| 労働条件明示違反件数 | 1万9,049件 | 約3割増(2年連続増加) |
| 明示違反による送検件数 | 31件 | 前年比10件増 |
厚労省は、令和6年4月の明示ルール変更が増加の主因と分析しています。つまり、法改正に気づかずに古い書式を使い続けている会社が、軒並み違反を指摘されている状況です。
2. 令和6年4月施行——何が変わったのか?
改正労働基準法施行規則により、すべての労働者に対して明示しなければならない項目が追加されました。
(1)就業場所・業務内容の「変更の範囲」を明示
採用時に従事する業務・就業場所だけでなく、将来的に変更となり得る就業場所と業務の範囲についても明示が必要になりました。
就業場所:西宮市○○(変更の範囲:会社の定める事業所)
従事業務:営業業務(変更の範囲:会社の定める業務)
これを怠ると、それだけで労働条件明示違反になります。
(2)有期労働契約の「更新上限」を明示
有期雇用(パート・アルバイト・契約社員等)を採用する際、契約を更新できる上限回数または通算期間を明示しなければなりません。
契約更新の上限:通算3年まで(または3回まで)
・更新上限を設けない場合も「更新上限なし」と記載する
(3)無期転換申込機会・転換後労働条件を明示
有期労働契約が通算5年を超えて更新される場合、無期転換申込権が発生する契約の更新時には以下の2点を明示する必要があります。
- 無期転換を申し込むことができる旨
- 無期転換後の労働条件
3. どんな会社が違反で指摘されているか
労働基準監督署の調査対象になりやすいケースとして、以下が挙げられます。
- 既製品の雇用契約書・就業規則を長年更新せずに使っている会社
- 人事担当者が法改正情報を追えていない中小企業
- パート・アルバイトの契約書に更新回数の上限を記載していない会社
- 採用時の契約書に「変更の範囲」の記載がない会社
特に中小企業・零細企業ほど未対応の率が高いのが現状です。大企業は人事部が対応済みでも、10〜50人規模の事業者では「そんなルール変わったの?」というケースが多く見られます。
4. 違反するとどうなる?
罰則規定
労働基準法第120条により、労働条件の明示義務違反には30万円以下の罰金が科せられます。
送検・書類送検も
令和7年の速報では、明示違反による送検件数が31件(前年比10件増)に増加しています。送検されると企業名が公表されるほか、社会的信用にも大きなダメージを与えます。
採用トラブルの温床にも
入社後に「聞いていた条件と違う」とのトラブルが発生し、労働審判・裁判に発展するリスクもあります。「変更の範囲」を明示しておくことで、配置転換をめぐる紛争を予防することにもつながります。
5. 今すぐやるべき対応チェックリスト
- ☑ 就業場所・業務内容の「変更の範囲」が記載されているか
- ☑ 有期雇用の場合、更新の上限回数・通算期間が明記されているか
- ☑ 通算5年超の有期雇用者に、無期転換申込機会を通知しているか
- ☑ 転換後の労働条件(賃金・労働時間等)が明示されているか
- ☑ 書式が令和6年4月以降に更新されたものか確認する
既存の雇用契約書テンプレートが古いままの会社は、次回の契約更新・新規採用のタイミングで必ず書式を更新してください。
6. まとめ
「雇用契約書を渡している=法律を守っている」は令和6年4月以降は通用しません。新たに加わった明示項目(変更の範囲・更新上限・無期転換)を網羅していない書式はすべて違反になり得ます。
違反件数が3割増という速報データは、多くの企業がまだ対応できていない実態を示しています。労働基準監督署の調査は突然行われるため、「そのうち対応しよう」では手遅れになります。
「うちの書式、大丈夫?」と気になった経営者・人事担当者様はお気軽にご相談ください。
初回相談は無料です。
【情報ソース】
・厚生労働省「令和7年の監督業務実施状況(速報値)」
・労働新聞(2026年9月1日付)
・改正労働基準法施行規則(令和6年4月1日施行)




