「50代の社員をデジタル化に対応させたいが、研修費用が高くて踏み出せない」「ベテラン社員に新しいスキルを身につけてほしいが、どう支援すればいいかわからない」——そんな悩みを抱える経営者・人事担当者の方に、ぜひ知っていただきたい助成金があります。
令和8年(2026年)4月8日、人材開発支援助成金(人材育成支援コース)に「中高年齢者実習型訓練」が新たに追加されました。これは45歳以上の従業員を対象に、座学(OFF-JT)と実務研修(OJT)を組み合わせた実践的な訓練を実施した際に、その費用の最大75%を助成する制度です。
この記事では、西宮市の社会保険労務士が、中高年齢者実習型訓練の仕組み・対象要件・支給額・申請手続きをわかりやすく解説します。
- 対象者:訓練開始日時点で45歳以上の雇用保険被保険者
- 訓練内容:OFF-JT(座学)+OJT(実務研修)を組み合わせた2ヶ月以上の訓練
- 経費助成率:中小企業は60%(賃金要件等達成で75%)
- 賃金助成:1人1時間あたり800円(賃金要件等達成で1,000円)
- OJT実施助成:1人1コースあたり10万円(賃金要件等達成で13万円)
- 申請期限:訓練終了日の翌日から2ヶ月以内
中高年齢者実習型訓練とは?
中高年齢者実習型訓練とは、人材開発支援助成金(人材育成支援コース)に令和8年4月から新設された訓練メニューです。
従来の人材育成支援コースは若年層から中高年層まで幅広い労働者を対象としていましたが、今回新たに「45歳以上の中高年齢者」に特化した実習型訓練が追加されました。生成AIやDXといったデジタル技術の急速な普及を背景に、ベテラン社員のリスキリング(学び直し)ニーズに応えるための制度です。
「実習型」とは?
「実習型訓練」とは、座学(OFF-JT)と実務経験(OJT)を組み合わせた訓練形態のことです。机上の学習だけでなく、実際の業務を通じてスキルを習得するため、中高年齢者が新しい知識・技術を確実に身につけやすい構成となっています。
新設の背景
日本では労働人口の高齢化が急速に進んでいます。45歳以上の労働者が全体に占める割合は年々高まっており、中高年齢者の戦力化・スキルアップは多くの中小企業にとって喫緊の課題です。
一方で、IT・AI・DXなどの分野では、座学だけでは習得が難しく、実際の業務を通じた実践訓練が有効であることが知られています。そこで厚生労働省は、OFF-JTとOJTを組み合わせた「実習型」の訓練に絞って助成する新メニューを設けました。
これは期間限定の措置ではなく、恒久的な制度として導入されています。
対象となる事業主の要件
この助成金を利用するには、事業主が以下の要件を満たす必要があります。
- 雇用保険適用事業所であること
- 職業能力開発推進者を選任していること
- 訓練計画を作成し、労働局に届け出ていること(訓練開始日の原則1ヶ月前まで)
- 訓練を受けた労働者に対して訓練中も所定の賃金を支払うこと
- 訓練の受講履歴・出欠記録などの書類を整備・保管していること
訓練開始後に申請しても助成金を受けることはできません。必ず訓練開始前に管轄の都道府県労働局へ訓練計画を届け出てください。
対象となる労働者(訓練生)の要件
訓練を受ける労働者については、以下の要件をすべて満たす必要があります。
- 訓練開始日時点で45歳以上であること
- 雇用保険の被保険者であること
- 訓練に出席率70%以上(OFF-JT部分)で参加すること
- 訓練開始前にキャリアコンサルタントによる面談を受け、訓練への参加が必要と認められること
対象となる訓練の要件
中高年齢者実習型訓練として認められるには、訓練自体が以下の要件を満たす必要があります。
- OFF-JT(座学)とOJT(実務研修)を組み合わせた訓練であること
- 訓練期間が2ヶ月以上であること
- 訓練内容が業務上必要なスキル習得に関連していること
- 訓練計画に沿って実施されていること
活用できる訓練の例
- 生成AI(ChatGPT等)の業務活用研修+実際の業務への適用OJT
- デジタルマーケティング・SNS運用の座学+社内での実施OJT
- 経理・財務のDXツール(会計ソフト、クラウド経費精算等)の操作研修+実務OJT
- 介護・医療系のケアスキル向上研修+現場実習
支給額の詳細
支給額は「経費助成」「賃金助成」「OJT実施助成」の3種類があります。
中小企業の場合
| 助成の種類 | 通常の場合 | 賃金要件等達成時 |
|---|---|---|
| 経費助成率(OFF-JT) | 60% | 75% |
| 賃金助成(OFF-JT) | 800円/時間 | 1,000円/時間 |
| OJT実施助成 | 10万円/人・コース | 13万円/人・コース |
中小企業以外(大企業等)の場合
| 助成の種類 | 通常の場合 | 賃金要件等達成時 |
|---|---|---|
| 経費助成率(OFF-JT) | 45% | 60% |
| 賃金助成(OFF-JT) | 500円/時間 | 750円/時間 |
| OJT実施助成 | 7万5,000円/人・コース | 10万円/人・コース |
賃金要件等とは?
「賃金要件等」を達成することで、助成率・助成額がアップします。賃金要件等の内容については、訓練計画届出時に管轄の労働局に確認してください。一般的には訓練終了後に賃金を一定割合以上引き上げることなどが要件とされています。
具体的な活用イメージ
ケース1:50代の経理担当者にクラウド会計ソフト研修を実施
- 対象:経理部の50代社員2名
- 訓練内容:クラウド会計ソフトの操作研修(OFF-JT 20時間)+実際の帳簿入力業務OJT(2ヶ月)
- 研修費用:1人あたり10万円(OFF-JT経費)
助成額の例(中小企業・通常の場合):
- 経費助成:10万円 × 60% = 6万円/人
- 賃金助成:20時間 × 800円 = 1万6,000円/人
- OJT実施助成:10万円/人
- 合計:17万6,000円/人 × 2名 = 35万2,000円
ケース2:45歳の製造担当者に新技術の実習型訓練を実施
- 対象:製造部の45歳社員1名
- 訓練内容:新設備の操作・保守研修(OFF-JT 30時間)+製造現場でのOJT(3ヶ月)
- 研修費用:8万円(OFF-JT経費)
助成額の例(中小企業・賃金要件等達成の場合):
- 経費助成:8万円 × 75% = 6万円
- 賃金助成:30時間 × 1,000円 = 3万円
- OJT実施助成:13万円
- 合計:22万円
申請手続きの流れ
中高年齢者実習型訓練の申請は、訓練開始前の届出が必須です。以下の手順で進めましょう。
-
訓練計画の作成
訓練の目的・内容・期間・対象者・実施機関などを記載した訓練計画を作成する。 -
職業能力開発推進者の選任
社内で職業能力開発推進者(担当者)を選任し、届け出ておく。 -
対象者のキャリアコンサルタント面談
訓練開始前に、対象となる45歳以上の労働者がキャリアコンサルタントと面談を受ける。 -
訓練計画届の提出
訓練開始日の原則1ヶ月前までに、管轄の都道府県労働局に訓練計画届を提出する。 -
訓練の実施
計画に従って訓練を実施。出席記録・訓練記録を適切に管理する。 -
支給申請
訓練終了日の翌日から2ヶ月以内に、管轄の都道府県労働局に支給申請書を提出する。
他の人材開発支援助成金コースとの比較
| コース名 | 対象者 | 訓練の種類 | 経費助成率(中小) |
|---|---|---|---|
| 中高年齢者実習型訓練(新設) | 45歳以上 | OFF-JT+OJT必須 | 60〜75% |
| 人材育成支援コース(一般) | 在職者全般 | OFF-JT | 60〜75% |
| 人への投資促進コース | 在職者全般 | 高度・専門訓練 | 70〜75% |
| 事業展開等リスキリング支援コース | 在職者全般 | 新分野展開等の訓練 | 75% |
中高年齢者実習型訓練は、「45歳以上」に特化しており、かつOJTとOFF-JTの組み合わせが必須です。実際の業務を通じてスキルを定着させたい場合に最適な選択肢です。
活用の注意点
- 訓練前の届出が必須:訓練開始後に申請しても受理されません。スケジュールに余裕を持って準備してください。
- キャリアコンサルタント面談が必要:対象者ごとにキャリアコンサルタントとの面談記録が必要です。社外のキャリアコンサルタントに依頼することも可能です。
- 記録の整備:出席簿・賃金台帳・受講証明書などの書類を適切に保管してください。
- 令和8年度から恒久措置:この制度は時限措置ではなく、継続的に活用できます。
まとめ
人材開発支援助成金(中高年齢者実習型訓練)は、令和8年度から新設された45歳以上の従業員向けOJT+OFF-JT訓練への助成制度です。生成AI・DX・新技術など時代の変化に対応するため、ベテラン社員のリスキリングを進めたい企業にとって、研修費用の大きな負担軽減につながります。
特に中小企業では経費の最大75%が助成されるため、費用面のハードルが大幅に下がります。訓練開始前の届出が必須ですので、研修を計画したらすぐに準備を始めることが重要です。
西宮市・阪神間で人材育成に関するご相談、助成金申請のサポート、訓練計画の作成支援などについては、ぜひ武田社会保険労務士事務所にお気軽にご相談ください。
参考:厚生労働省「人材開発支援助成金」(令和8年4月8日改正)




