「うちの社員がパワハラで訴えられたけど、慰謝料なんてたかが知れてるんじゃないの?」
そう思っている経営者の方、今後はその認識が大きく変わるかもしれません。
令和8年10月、法務省が「不法行為法制のあり方」を見直す有識者研究会を立ち上げました。この動きは、職場でのハラスメント(パワハラ・セクハラ)に対する損害賠償額に直接影響する可能性があります。
今回は、この法改正検討の内容と、企業・経営者が今から行うべき対策について、西宮市の社会保険労務士がわかりやすく解説します。
1. 今回のニュースのポイント
- 法務省が「不法行為法制の見直し」を検討する有識者研究会を設置(令和8年10月)
- きっかけは「人格権侵害の損害賠償額が低すぎる」という指摘
- 当初の目的はインターネット上の誹謗中傷への対応だが、ハラスメントにも影響が及ぶ見通し
- 慰謝料算定の考慮要素を法律に明記することを検討中
2. そもそも「不法行為法制」とは?
難しく聞こえますが、簡単に言うと「他人に損害を与えた場合に賠償しなければならないというルール」のことです。
現在の民法では、不法行為(故意または過失で他人に損害を与えた行為)に対して損害賠償を請求できます。職場でのパワハラやセクハラもこの「不法行為」に当たります。
ハラスメントと損害賠償の関係
これまで職場でのハラスメント被害者が損害賠償(慰謝料)を求めて裁判を起こす際、主な根拠として使われてきたのが「人格権侵害による不法行為」という法律構成です。
つまり、「あなたの行為(ハラスメント)で私の人格的な権利(人格権)が侵害されたので、慰謝料を払ってください」という訴えです。
3. 現状の問題:慰謝料が低すぎる?
有識者研究会が立ち上げられた背景には、「日本の慰謝料(精神的損害に対する賠償額)は先進国の中でも低い」という指摘があります。
具体的にどのくらい低いのか
例えば、職場でのパワハラ訴訟で認められる慰謝料は、現在の日本の裁判では数十万円〜100万円程度が多いとされています。一方、海外では同様のケースで数百万円〜数千万円の賠償が認められることもあります。
この「賠償額が低い」という状況が、ハラスメント行為の抑止力として機能していないという批判につながっています。
4. 法務省が検討している内容
今回の有識者研究会では、主に次の点を検討しています。
(1)慰謝料算定の考慮要素を法律に明記
現在、慰謝料の金額は裁判官が個別に判断しており、統一した基準がありません。法務省は慰謝料を算定する際に考慮すべき要素(行為の悪質性、被害の程度、加害者の経済力など)を法律に明示することを検討しています。
これにより、慰謝料額が増額・統一化される可能性があります。
(2)インターネット誹謗中傷対策が出発点
この研究会は当初、SNSでの誹謗中傷問題への対応として立ち上げられました。しかし、同じ「人格権侵害」の法律構成が職場ハラスメントにも使われているため、見直しの影響はハラスメント訴訟にも及ぶとみられます。
5. 企業・経営者への影響
この法改正検討が実現した場合、企業にとって以下のような影響が考えられます。
影響①:ハラスメント訴訟の賠償額が大幅に増加する可能性
慰謝料の算定基準が明確化・引き上げられると、現在の数十万円〜100万円程度が、数百万円以上になる可能性があります。
これは、ハラスメントが発生した場合に企業が負う経済的リスクが大幅に拡大することを意味します。
影響②:会社も連帯責任を問われるリスク
パワハラをした上司個人だけでなく、会社(使用者責任・安全配慮義務違反)も訴えられることがほとんどです。適切なハラスメント対策を取っていなかった会社は、高額の賠償責任を負う可能性があります。
影響③:ハラスメント対策の重要性がさらに高まる
現在でもパワハラ防止法(労働施策総合推進法)によりハラスメント対策は義務とされていますが、賠償額増加というリスクが加わることで、より実効性のある対策が求められるようになります。
6. 今から企業が行うべき対策
法改正の内容が決まる前に、今からできる対策を講じておくことが重要です。
対策①:ハラスメント防止規程の整備・更新
就業規則やハラスメント防止規程を整備し、具体的な禁止行為と懲戒処分の基準を明確にすることが重要です。規程が古いままの会社は、この機会に見直しを行いましょう。
対策②:管理職へのハラスメント研修の実施
パワハラのほとんどは管理職(上司)から部下へのケースです。管理職に対して定期的なハラスメント研修を実施し、何がハラスメントにあたるかを正しく理解させることが必要です。
対策③:相談窓口の設置と周知
社内または社外(顧問社労士・弁護士)に相談窓口を設け、従業員がハラスメントを報告しやすい環境を整えることが大切です。早期発見・早期対応が被害の拡大を防ぎます。
対策④:記録の保管
ハラスメントに関する相談対応、調査結果、処分の記録を適切に保管しましょう。訴訟になった場合、会社が適切な対応を取っていたことを証明する証拠となります。
対策⑤:顧問社労士・弁護士との連携強化
ハラスメントの問題は、発生してから対応するのでは遅い場合もあります。平時から顧問社労士や弁護士と連携し、予防的な対策と、万が一の場合の対応手順を整えておくことを強くお勧めします。
7. まとめ
今回の法務省の動きをまとめると、次のようになります。
- 法務省が不法行為法制(損害賠償のルール)の見直しを検討開始(令和8年10月)
- 慰謝料算定の考慮要素を法律に明記することを検討中
- ハラスメントの慰謝料が増額される可能性がある
- 企業は今から防止規程の整備・研修実施・相談窓口設置などの対策を
「うちはパワハラなんてない」と思っていても、管理職の言動が知らず知らずのうちにパワハラになっているケースは少なくありません。この機会に、社内のハラスメント対策を改めて見直してみてください。
西宮市の武田社会保険労務士事務所では、就業規則の整備・ハラスメント防止規程の作成・管理職研修のサポートを行っています。お気軽にご相談ください。
【情報出典】
全国社会保険労務士会連合会 NEWS HEADLINE
ニュース提供元:株式会社 労働新聞社(令和8年10月20日)




