「契約社員を毎年更新してきたけど、今年は更新しなくていい?」
「何回も更新してきたら、もう辞めてもらえないの?」
契約社員やパートタイマーなど、有期労働契約(期間を定めた雇用契約)を使っている事業主の方から、こんなご質問をよくいただきます。
有期契約は「期間が来れば終わり」と思われがちですが、更新を繰り返してきた場合は簡単に終了できないケースがあります。これを「雇い止め」といい、法律上のルールと多くの裁判例があります。
この記事では、厕生労働省が公開している4つの代表的な裁判例(東苗柳町工場事件、日立メディコ事件、福原学団事件、博報堂事件)をもとに、雇い止めのルールを事業主の方向けにわかりやすく解説します。
「雇い止め」とは何か?基本を確認しよう
雇い止め(やといどめ)とは、有期労働契約(期間を定めた雇用契約)の期間満了時に、使用者が契約の更新を拒否して雇用関係を終了させることです。
「期間が終わったから、自動的に契約終了」というわけではなく、一定の条件下では解雇と同じような扱いになるため、事業主は注意が必要です。
労働契約法19条のルール
雇い止めについては、労働契約法第19条に明確なルールが定められています。以下のどちらかに当てはまる有期契約については、解雇権濫用法理が類推適用され、客観的・合理的な理由がなければ雇い止めできません。
- ① 過去に反復更新されており、その雇い止めが無期契約の解雇と社会通念上同視できる場合
- ② 労働者において雇用継続の合理的な期待が認められる場合
つまり、「更新してきた実績があること」や「更新されると思うのが自然な状況」があれば、期間満了でも簡単には終了できなくなります。
4つの裁判例から学ぶ雇い止めの判断基準
① 東苗柳町工場事件(最高裁 1982年7月22日)
事件の概要
東苗の工場で働く7名の臨時従業員(2ヵ月契約)が、5~23回の契約更新を経たのちに雇い止めされました。
裁判所の判断
最高裁は「契約が繰り返し更新されることで、実質的に期間の定めのない契約と同一の状態となっていた」と認め、解雇に関するルールが適用されると判断しました。
事業主へのポイント
更新回数が多くなるほど、「事実上の正社員と同じ」とみなされるリスクが高まります。更新のたびに契約書を適切に作成し、更新するかどうかを明確に示す必要があります。
② 日立メディコ事件(最高裁 1986年12月4日)
事件の概要
臨時員として採用された方が、2ヵ月契約を5回更新したのちに雇い止めされました。会社側には業務縮小という合理的な理由がありました。
裁判所の判断
最高裁は「繰り返し更新された場合でも、短期臨時的な労働者については、整理解雇の要件(正社員を先に整理するなど)は適用されない」と判断し、雇い止めを有効としました。
事業主へのポイント
業務縮小など真に合理的な理由がある雇い止めは認められる場合があります。ただし、その際は雇い止めの理由を明確にして書面等で通知することが重要です。
③ 福原学団事件(最高裁 2016年12月1日)
事件の概要
大学の非常勤講師が、最大10年・更新は裁量によると契約書に明記されていたにもかかわらず、雇用継続を期待して詴訟を起こしました。
裁判所の判断
最高裁は「契約書に雇用期間の上限(10年)と更新は学校側の裁量による旨が明記されていたため、雇用継続の合理的な期待は認められない」として、雇い止めを有効と判断しました。
事業主へのポイント
これは事業主にとって非常に重要な教訓です。「更新は 回まで」「更新は会社の判断による」といった内容を契約書に明記しておくことで、雇用継続への期待を否定できます。あいまいな契約書のまま更新を繰り返すと、後のトラブルにつながります。
④ 博報堂事件(最高裁 2020年3月17日)
事件の概要
広告代理店・博報堂で30年間にわたり1年契約を29回更新してきた社員が、突然雇い止めされました。
裁判所の判断
最高裁は「30年・29回という長期の更新実績があり、雇用継続への合理的な期待が形成されている。雇い止めには客観的・合理的な理由がなく、社会通念上相当とはいえない」として、雇い止めを無効と判断しました。
事業主へのポイント
これが最も危険なパターンです。何十年も更新し続けてきた場合、「期間満了だから終わり」とは到底いえません。雇い止めには正当な理由が必要で、なければ雇い止めは無効となり、雇用継続を求められます。
事業主が今すぐやるべき3つの対策
以上の裁判例から、有期契約を使っている事業主の方には、次の対策をおすすめします。
対策①:契約書に更新上限・更新可否の判断基準を明記する
福原学団事件のように、「更新回数の上限は 回まで」「更新するかどうかは会社が業務の必要性に応じて判断する」といった条件を契約書に明確に記載しましょう。ただし、口約束とのギャップが生じないよう注意が必要です。
対策②:更新のたびに「更新確認書」を締結する
自動的に更新するのではなく、更新のたびに新しい契約書(または更新確認書)を作成し、双方が署名・捧印しましょう。「惰性で更新している」状態は、後のトラブルのもとです。
対策③:雇い止めの30日前までに予告する
労働基準法上、3回以上更新した、または1年超継続勤務した有期契約は、契約満了の30日前までに雇い止めの予告が必要です。突然「来月で終わりです」は法律違反になります。
5年超の更新は「無期転換ルール」にも注意!
2013年施行の改正労働契約法により、同一の使用者との有期労働契約が通算5年を超えた場合、労働者の申し込みにより無期労働契約へ転換できる「無期転換ルール」が設けられました。
5年を超えそうな有期契約社員がいる場合は、事前に無期転換への対応(転換後の労働条件の整備など)を検討しておく必要があります。この手続きを怠ると、無期転換申し込みを拒否できないため、自動的に無期雇用となります。
まとめ
今回は、有期契約の雇い止めに関する4つの裁判例をご紹介しました。
- 更新を繰り返した有期契約は、解雇と同じルールが適用される場合がある(東苗柳町工場事件)
- 合理的な理由があれば雇い止めは認められる(日立メディコ事件)
- 契約書に更新上限を明記しておけば、雇用継続の期待を否定できる(福原学団事件)
- 30年・29回の更新実績では雇い止めは無効(博報堂事件)
有期契約の扱いは、一見シンプルに見えて非常に奥が深く、トラブルになると解決が難しくなります。
「今の有期契約の使い方は大丈夫かな?」と少しでも不安に感じたら、ぜひ一度、社会保険労務士にご相談ください。
西宮市の社会保険労務士事務所・SR TAKEDA(タケダ社会保険労務士事務所)では、有期契約・雇用管理に関するご相談を承っております。お気軽にお問い合わせください。
▼ 参考:厕生労働省「確かめよう労働条件」
有期契約・雇止めに関する裁判例




