「技能実習生を雇っているけど、2027年以降どうなるの?」「育成就労制度って何が変わるの?」という声が、経営者や人事担当者の間で急増しています。
2024年6月に「出入国管理及び難民認定法及び外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律等の一部を改正する法律」が成立し、35年以上続いてきた「外国人技能実習制度」が廃止されることが決まりました。
代わりに登場するのが「育成就労制度」です。2027年の施行に向け、外国人を採用・雇用している企業は今から準備を始める必要があります。本記事では、技能実習制度との違い・企業への影響・今から取るべき対応策をわかりやすく解説します。
1. なぜ技能実習制度は廃止されるのか
外国人技能実習制度は1993年に始まり、「途上国への技術移転・国際貢献」を建前として、製造業・農業・建設業・食品加工業などで広く活用されてきました。しかし、制度の実態は「安価な労働力の確保」であるとして、長年にわたり国内外から批判を受けてきました。
主な問題点
- 失踪者の増加:過酷な労働環境・低賃金から逃れるための失踪が後を絶たず、2023年度の技能実習生の失踪者数は過去最多水準
- 人権侵害リスク:パスポートの取り上げ・強制帰国の脅し・違約金条項など非人道的な扱いが報告される
- 転職の禁止:原則として転籍(転職)できず、劣悪な職場でも逃げ出せない構造的問題
- 国際社会からの批判:ILO(国際労働機関)・米国国務省の人身売買報告書など、国際的な批判も受けていた
こうした問題を抜本的に解決するため、政府の有識者会議を経て新制度の創設が決定されました。
2. 育成就労制度の概要
育成就労制度は、技能実習制度の「廃止」ではなく「目的を変えた制度改革」と理解するのが正確です。
| 項目 | 技能実習制度(現行) | 育成就労制度(2027年〜) |
|---|---|---|
| 目的 | 技術移転・国際貢献(建前) | 人材の育成と確保(明確化) |
| 在留期間 | 最長5年(1号→2号→3号) | 最長3年(原則) |
| 転籍(転職) | 原則不可 | 一定要件を満たせば可能 |
| 次のステージ | 特定技能1号(一部分野) | 特定技能1号への移行を前提 |
| 日本語能力要件 | 特になし(入国時) | 日本語能力試験A1相当以上 |
| 監理組織 | 監理団体(組合等) | 監理支援機関(許可制・要件強化) |
育成就労制度の3つの柱
- 育成:3年間の就労を通じて、特定技能1号に必要なスキル・日本語能力を身につける
- 就労:労働者としての権利保護を明確にし、適正な賃金・待遇を保証する
- 確保:人手不足に悩む産業分野での人材確保を正面から認める
3. 技能実習制度との5つの主な違い
① 転籍(転職)が可能になる
現行の技能実習制度では、原則として転籍(雇用主を変えること)が禁止されています。これが劣悪な職場から逃げ出せない最大の要因とされてきました。
育成就労制度では、就労開始から1年を経過し、かつ日本語能力試験(A2相当以上)を取得した場合、同一の業務区分内であれば転籍が認められます。
ただし、転籍先は同一の特定産業分野・業務区分に限られ、無制限に転職できるわけではありません。それでも企業にとっては「育てた人材が他社に移る可能性」が生じるため、定着施策・職場環境の改善が一層重要になります。
② 特定技能1号への移行が前提設計に
育成就労制度は「特定技能1号への移行のための制度」として明確に位置づけられています。
育成就労の3年間を修了し、特定技能1号の技能試験・日本語試験に合格すれば、スムーズに特定技能1号として在留資格を変更できます。現行制度では分野によって移行できる・できないが複雑でしたが、新制度ではより体系的な移行ルートが整備されます。
③ 監理支援機関の要件が強化される
現行制度の「監理団体」(中小企業団体・事業協同組合等)は許可取消・業務停止といった事例が多発しており、問題のある監理団体が外国人の人権侵害の温床になるケースもありました。
新制度では「監理支援機関」として再編され、外部監査人の設置義務・利益相反関係の排除・情報公開の強化などが求められます。監理支援機関の要件を満たせない組織は業務継続できなくなるため、監理団体の選び直しが必要になる企業も出てきます。
④ 日本語能力要件が追加される
技能実習制度では入国時の日本語能力に法的要件はありませんでしたが、育成就労制度では入国時点で日本語能力試験A1相当以上、転籍に際してはA2相当以上の取得が必要となります。
これは「育成」の観点から日本語能力を重視した改正ですが、企業側としてもOJT・日常業務における日本語コミュニケーション支援が求められることになります。
⑤ 保護・支援体制が強化される
不正行為を行った受入機関(企業)に対する制裁が強化されます。また、外国人が相談・支援を受けられる「外国人育成就労機構」(仮称)が設立される予定で、行政による監視・支援も手厚くなります。
4. 企業(受入機関)への具体的な影響
転籍リスクへの対応が必要
育成就労者が1年経過後に転籍できるようになることで、企業にとっては「育てた人材が他社に移る」リスクが生じます。このリスクを低減するためには、以下の取り組みが有効です:
- 適正な賃金・待遇の提供(業界水準以上)
- 住環境・生活サポートの充実
- 日本語学習や技能向上の機会提供
- コミュニケーション環境の整備(通訳・多言語マニュアル等)
待遇の底上げが求められる
育成就労制度では「同等の業務に従事する日本人労働者と同等以上の報酬」が法的に義務づけられます。賃金だけでなく、各種手当・福利厚生についても同一労働同一賃金の観点から整備する必要があります。
費用負担の見直し
現行の技能実習では、入国前の送出し費用の一部を技能実習生が自己負担し、過大な借金を抱えて来日するケースがありました。新制度では不当な費用負担の禁止が徹底され、受入機関側にも費用分担が求められる場面が増える可能性があります。
5. 今から準備すべき5つのポイント
① 現在の技能実習生の状況を確認し、移行スケジュールを把握する
現在技能実習生を受け入れている企業は、各実習生の在留資格・在留期間・移行可能性を早めに確認してください。2027年の施行後も、在留中の技能実習生は一定の経過措置の下で現行制度が適用される見込みです。ただし、施行後に新たに外国人を受け入れる場合は育成就労制度が適用されます。
② 監理団体(将来の監理支援機関)の要件適合状況を確認する
現在お付き合いのある監理団体が、新制度の「監理支援機関」として許可を取得できるか確認しましょう。要件を満たせない団体は業務継続ができなくなるため、早めに情報収集・必要であれば変更を検討してください。
③ 給与・待遇を見直す(同一労働同一賃金の徹底)
育成就労者に対して「日本人と同等以上の報酬」が法的に義務化されます。現在、外国人労働者の賃金が日本人より低く設定されている場合は、今のうちに是正しておくことで、制度移行後のトラブルを防げます。社会保険・雇用保険の加入漏れもこの機会に確認しましょう。
④ 日本語学習支援環境を整備する
育成就労者が転籍要件(A2相当以上)を満たせるよう、会社として日本語学習の時間・費用を支援する仕組みを設けると、定着率向上にもつながります。地域のNPO・日本語教室・オンライン学習ツールの活用も検討してください。
⑤ 就業規則・労働条件通知書を多言語対応で整備する
外国人労働者向けに母国語(または英語等)での就業規則・労働条件通知書を用意することは、労使トラブル防止の観点から有効です。就業規則に育成就労者の処遇に関する規定を盛り込むことも検討しましょう。社労士に相談しながら、早めに整備しておくことをお勧めします。
まとめ:「育成就労制度」は企業にとってチャンスでもある
技能実習制度の廃止と育成就労制度への移行は、一見「制約が増える」ように見えますが、見方を変えれば「外国人労働者との長期的な信頼関係を築けるチャンス」でもあります。
育成就労制度のもとで転籍を選ばないよう「この会社で働き続けたい」と思ってもらえる職場環境を整えることが、長期的な人材確保の最善策です。
また、育成就労から特定技能1号へのキャリアパスが整備されることで、優秀な外国人人材が長期にわたって貢献してくれる可能性も高まります。
2027年の施行まで時間はあるようで、準備に思ったより時間がかかるものです。現在外国人を雇用している企業、あるいはこれから外国人採用を検討している企業は、今すぐ社労士に相談して、スムーズな移行を準備しておきましょう。
育成就労制度への対応・外国人雇用の手続きについて、SR武田社会保険労務士事務所(西宮市)が無料相談を承っております。就業規則の多言語対応・社会保険手続き・労働条件通知書の整備など、お気軽にご相談ください。




