「懲戒解雇したから退職金はゼロでいい」「競合他社に転職したから退職金は返せ」——こんな考えを持っている経営者は要注意です。退職金を不支給・減額するには、法律上の明確な条件があります。
この記事では、退職金の不支給・減額をめぐる3つの重要判例(小田急電鉄事件・三晃社事件・京都市交通局事件)を社労士がわかりやすく解説します。2025年の最新最高裁判決も含めていますので、ぜひ最後までお読みください。
退職金とは?法的な性格を理解しよう
退職金は、就業規則や退職金規程に支給条件が定められている場合、「賃金の後払い」または「功労報償」としての法的性格を持ちます。
つまり、退職金には「長年の労働の対価として積み立てられてきたお金」という側面があります。そのため、会社が一方的にゼロにしたり大幅に減額したりすることは、原則として許されません。
| 退職金の性格 | 内容 | 減額・不支給への影響 |
|---|---|---|
| 賃金の後払い | 長年の労働の対価として積み立てたもの | 減額・不支給は厳格に判断される |
| 功労報償 | 会社への貢献・忠誠に対する報酬 | 重大な背信行為があれば減額も可能 |
判例1:小田急電鉄事件(東京高裁・2003年)
どんな事件?
小田急電鉄の社員Aさんは、勤務外の時間に痴漢行為で逮捕・起訴されました。会社はこれを理由に懲戒解雇とし、退職金を全額不支給としました。
裁判所の判断
東京高裁(2003年12月11日)は次のように判断しました。
- 懲戒解雇自体は有効
- ただし退職金の全額不支給は行き過ぎ
- 退職金の30%は支給すべき
裁判所は「退職金は長年の勤続の賃金の後払い的性格を持つ。職務外の私的行為による非違行為を理由に全額不支給とするのは、比例原則に反する過酷な処分だ」と述べました。
この判例のポイント
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 事件の種類 | プライベートの非違行為(職務外) |
| 懲戒解雇 | 有効 |
| 退職金全額不支給 | 無効(30%の支給を命令) |
| 理由 | 賃金後払い性を無視した過酷な処分 |
教訓:懲戒解雇になっても、退職金を完全にゼロにするには「それだけの重大さ」が必要です。プライベートの行為での全額カットは認められないケースがあります。
判例2:三晃社事件(最高裁・1977年)
どんな事件?
広告代理店の三晃社を退職した社員Bさんは、同業他社(競合会社)に再就職しました。会社の就業規則には「退職後に競合他社に就職した場合は退職金を半額にする」という規定がありました。会社はこの規定に基づき、退職金の半額返還を求めました。
裁判所の判断
最高裁(1977年8月9日)は次のように判断しました。
- 退職金の半額返還を求める規定は有効
- 労働基準法の「損害賠償予定の禁止」には違反しない
- 退職金の功労報償的性格から、競業避止違反による減額は合理的
この判例のポイント
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 退職金規程の内容 | 競合他社転職で半額減額 |
| 最高裁の判断 | 規程は有効(半額返還を認容) |
| 理由 | 功労報償性に基づく減額は合理的 |
| 注意点 | 就業規則に明記されていることが条件 |
教訓:競合他社への転職を退職金減額の要件とする規定は、就業規則に明記されていれば有効です。ただし、その規定が合理的な範囲内である必要があります。
判例3:京都市交通局事件(最高裁・2025年4月)【最新】
どんな事件?
2025年4月17日、最高裁判所第一小法廷が注目の判決を下しました。
京都市交通局のバス運転手Cさん(勤続29年)は、①乗客運賃の着服(合計約1,000円)と②職場での電子たばこ使用を理由に懲戒免職となりました。その結果、退職手当約1,211万円が全額不支給となりました。
裁判所の判断
最高裁は次のように判断し、全額不支給を適法としました。
- 運賃着服は「公共交通への信頼を大きく損なう重大な非違行為」
- 被害金額が小さくても、行為の質的重大性が重要
- 29年の勤続、全額返済済みなどの事情を総合考慮しても、全額不支給は裁量権の範囲内
この判例のポイント
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 非違行為の内容 | 運賃着服(約1,000円)+電子たばこ使用 |
| 勤続年数 | 29年 |
| 退職手当額 | 約1,211万円 |
| 最高裁の判断 | 全額不支給は適法 |
| 理由 | 公共交通の信頼を損なう「質的重大性」 |
教訓:金額が小さくても、行為の質(公金横領・背信行為)によっては全額不支給が認められます。ただし、これは公務員・公共性の高い事業者の事案であり、一般企業とは基準が異なる場合があります。
3つの判例を比較してみよう
| 事件名 | 非違行為 | 勤続 | 退職金 | 裁判所の判断 |
|---|---|---|---|---|
| 小田急電鉄事件(東京高裁2003年) | プライベートでの痴漢 | 長期 | 全額不支給 | ❌ 全額不支給は無効→30%支給命令 |
| 三晃社事件(最高裁1977年) | 競合他社への転職 | 不明 | 半額カット規定 | ✅ 半額カット規定は有効 |
| 京都市交通局事件(最高裁2025年) | 運賃着服+電子たばこ | 29年 | 全額不支給 | ✅ 全額不支給は適法 |
退職金を不支給・減額できる条件とは?
以上の判例から、退職金を不支給・減額するための条件が見えてきます。
- 就業規則・退職金規程に明確な規定があること
- 労働者の行為が「重大な背信行為」に該当すること(軽微な違反では不可)
- 不支給・減額の程度が行為の重大さと均衡していること(比例原則)
- (競業避止の場合)合理的な競業制限の範囲内であること
特に重要なのは「比例原則」です。どれだけ重い処分であっても、行為の重さに見合った処分でなければ裁判所に否定されます。
経営者・人事担当者が今すぐすべきこと
- 退職金規程に不支給・減額の条件を明確に規定する
- 競業避止条項を設ける場合は合理的な内容(期間・地域・職種の限定)にする
- 懲戒解雇時の退職金対応は弁護士・社労士に相談してから決定する
- 就業規則は定期的に見直し、最新の判例に対応させる
まとめ
退職金の不支給・減額は、「重大な背信行為」と「就業規則の明確な規定」の両方がそろって初めて認められます。金額の大小よりも、行為の質・背信性が重要なポイントです。
2025年の京都市交通局事件は、公共交通事業者における運賃着服という特殊事情がありましたが、民間企業でも横領・背任などの重大行為は同様に扱われる可能性があります。
退職金規程の整備や懲戒処分対応にお困りの経営者様は、ぜひ当事務所にご相談ください。
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📞 社会保険労務士事務所 竹田
西宮市の社労士事務所。就業規則・退職金規程の作成から懲戒処分対応まで、労務問題を総合的にサポートします。
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