「重度の障害がある社員が、通勤距離が遠くて毎日の出勤が難しい…」「職場の近くに住める住宅を確保したいが、賃借料の負担が大きい…」——そのようなお悩みをお持ちの事業主の方へ。
実は、重度障害のある従業員が職場に近い住宅を借りる場合に、その賃借料の4分の3(月額上限3万円)を最長10年間助成する制度があります。それが重度障害者等通勤対策助成金「重度障害者等用住宅の賃借助成金」です。
本記事では、令和8年度版の最新情報をもとに、重度障害者等用住宅の賃借助成金の概要・支給要件・支給額・申請の流れについて、西宮市の社会保険労務士がわかりやすく解説します。
この助成金の概要
重度障害者等通勤対策助成金「重度障害者等用住宅の賃借助成金」は、重度障害者等が就業するために、職場の近くに住宅を賃借した場合の賃借料を、事業主(または事業主団体)に対して助成する制度です。
この助成金は、障害者雇用納付金制度に基づき、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)が運営しています。重度障害のある従業員が自宅から職場まで通勤できない場合に、職場近くに住宅を借りることを後押しする制度で、企業が従業員の住宅費用を負担する際の経済的支援として活用できます。
重度障害者等通勤対策助成金は全9種類ありますが、今回紹介する「住宅の賃借助成金」は、通勤のための住居確保を支援するユニークな制度です。
支給要件
重度障害者等用住宅の賃借助成金を受給するためには、以下の要件をすべて満たす必要があります。
- 対象事業主:重度障害者等を雇用している事業主、または重度障害者等を雇用している事業主が加入している事業主団体であること
- 住宅の賃借:支給対象となる重度障害者等が就業するために必要な住宅を賃借していること(本人または事業主が賃借するもの)
- 通勤困難の認定:当該住宅を賃借しなければ、支給対象障害者の雇用の継続を図ることが困難であると認められること
- 支給対象障害者の要件:下表のいずれかに該当する障害者であること
支給対象となる重度障害者等の範囲は以下のとおりです。
| 障害種別 | 対象となる障害等級等 |
|---|---|
| 身体障害者(上肢) | 2級以上 |
| 身体障害者(体幹・心臓・腎臓・呼吸器等) | 3級以上 |
| 身体障害者(下肢) | 4級以上 |
| 知的障害者 | 療育手帳所持者(機構が定める重度等に該当する者) |
| 精神障害者 | 精神障害者保健福祉手帳所持者 |
なお、上記に該当する方が「労働者」として雇用されていることも要件となります。また、就労継続支援A型事業所の利用者(雇用型の福祉サービス利用者)は対象外となります(A型事業所の「職員(スタッフ)」は支給対象です)。
支給額・助成率
令和8年度の支給内容は以下のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 助成対象 | 重度障害者等が就業のために賃借した住宅の賃借料 |
| 助成率 | 賃借料の4分の3(75%) |
| 支給上限額 | 1人につき月額3万円 |
| 支給期間 | 住宅を賃借した日の属する月の翌月から起算して最長10年間 |
| 支給申請単位 | 6か月ごとの申請(原則) |
たとえば、月額家賃が4万円の住宅を賃借している場合、4万円 × 3/4 = 3万円が助成されます(上限が月額3万円のため)。家賃が2万円の場合は、2万円 × 3/4 = 1万5,000円が助成されます。
支給対象障害者の離職等により支給終了となった場合は、当該6か月間のうち支給対象期間のみが支給対象となります。
申請の流れ
重度障害者等用住宅の賃借助成金の申請は、JEED各都道府県支部で受け付けています。一般的な手続きの流れは以下のとおりです。
- 事前相談:管轄のJEED都道府県支部(高齢・障害者業務課または高齢・障害者窓口サービス課)に相談し、支給要件を確認する
- 受給資格認定申請:支給要件確認申立書(様式第540号)・助成金受給資格認定申請書(様式第601号)・事業計画書(助添付様式第65号)等の書類を作成し、JEEDへ提出する
- JEED審査・受給資格認定:JEEDが申請内容を審査し、受給資格が認定される
- 住宅の賃借開始:認定を受けた後、対象住宅の賃借を開始する(原則として認定前の賃借分は対象外)
- 支給申請:6か月ごとに支給申請書(様式第621号等)等を提出する
- 支給決定・振込:JEEDの審査後、支給が決定され指定口座に振り込まれる
申請に必要な様式はJEED公式サイトの重度障害者等用住宅の賃借助成金の様式ページからダウンロードできます。
申請にあたっての注意点
- 受給資格認定申請は、住宅を賃借する前に行う必要があります。賃借後の遡及申請は原則認められませんのでご注意ください。
- 「就業のために必要な住宅」であることが要件のため、対象障害者が実際に入居して通勤に使用していることが必要です。
- 賃借契約は、事業主名義でも本人名義でも対象となりますが、いずれの場合も就業のための住宅であることが証明できる書類が必要です。
- この助成金は障害者雇用納付金制度に基づく助成金です。事業主が障害者雇用納付金の申告義務がある場合は、適正に申告・納付していることも求められます。
- 同一の障害者に対して、「住宅の賃借助成金」と「住宅手当の支払助成金」は重複受給できません。いずれか一方を選択してください。
- 支給期間中に支給要件を欠くに至った場合(対象障害者の離職・転居等)は、その時点で支給が終了します。
「住宅の賃借助成金」と「住宅手当の支払助成金」の違い
重度障害者等通勤対策助成金には、住宅に関連する助成金が2種類あります。違いは以下のとおりです。
| 項目 | 住宅の賃借助成金 | 住宅手当の支払助成金 |
|---|---|---|
| 助成対象 | 事業主(または本人)が住宅を賃借する費用 | 事業主が従業員に支払う住宅手当 |
| 助成率 | 賃借料の3/4 | 支払額の3/4 |
| 月額上限 | 3万円 | 3万円 |
| 支給期間 | 最長10年 | 最長10年 |
| 主な違い | 住宅の契約者が事業主または本人 | 事業主が賃金として手当を支給 |
賃借料を事業主が直接負担しているケースでは「住宅の賃借助成金」が、賃借料の一部を「住宅手当」として給与に上乗せして支払うケースでは「住宅手当の支払助成金」が適しています。社内の実態に合わせてご選択ください。
まとめ・社労士からのアドバイス
重度障害者等用住宅の賃借助成金は、重度障害のある従業員が遠方から通勤できない場合に、職場近辺の住宅を確保するためのコストを国が助成してくれる心強い制度です。月額最大3万円・最長10年間という長期的なサポートが受けられるため、障害者雇用の継続支援として非常に有効です。
申請手続きや要件の確認は複雑な面もあるため、社会保険労務士(社労士)に事前相談されることをお勧めします。特に以下のポイントにご注意ください。
- 必ず住宅の賃借前に受給資格認定申請を済ませること
- 「住宅の賃借助成金」と「住宅手当の支払助成金」は併用不可のため、実態に合った制度を選ぶこと
- 対象となる障害者の等級・種別の要件を事前に確認すること
- 6か月ごとの支給申請を忘れずに行うこと
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 助成金名 | 重度障害者等通勤対策助成金「重度障害者等用住宅の賃借助成金」 |
| 運営機関 | JEED(独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構) |
| 助成対象 | 重度障害者等が就業のために賃借した住宅の賃借料 |
| 助成率 | 3/4 |
| 上限額 | 月額3万円 |
| 支給期間 | 最長10年間 |
| 申請窓口 | 各都道府県のJEED支部(高齢・障害者業務課) |
重度障害者の雇用継続・住宅支援に取り組む事業主の方は、ぜひこの助成金の活用をご検討ください。詳細はJEED公式サイトまたは各都道府県支部の窓口にお問い合わせください。




