「うちのパートさん、週20時間以上働いているけど月収が8万円くらいだから社会保険は不要よね?」——その認識、令和8年(2026年)10月1日から変わっています。
令和8年10月より、短時間労働者が社会保険(厚生年金・健康保険)に加入するための「賃金要件(月額8.8万円以上)」が廃止されました。いわゆる「106万円の壁」の撤廃です。
本記事では、変更の背景・変更後の加入要件・企業が取るべき対応・2035年までの段階的拡大スケジュールを、西宮市の社会保険労務士がわかりやすく解説します。
1. 「106万円の壁」とは何だったのか?
これまで、パート・アルバイト等の短時間労働者が社会保険に加入するには、以下の5つの要件をすべて満たす必要がありました(令和8年9月30日まで)。
| 要件 | 内容(改正前) |
|---|---|
| ① 企業規模 | 被保険者数51人以上の事業所 |
| ② 労働時間 | 週の所定労働時間が20時間以上 |
| ③ 賃金 | 月額8.8万円以上(年収約106万円以上) |
| ④ 雇用期間 | 2ヶ月を超える雇用の見込みがある |
| ⑤ 学生でないこと | 昼間学生は対象外 |
このうち③の「月額8.8万円以上」が「106万円の壁」と呼ばれていました。この基準を意識して勤務時間や日数を抑える労働者が多く、人手不足の一因とも指摘されていました。
2. 令和8年10月から何が変わった?
令和8年10月1日より、上記③の賃金要件(月額8.8万円以上)が廃止されました。
| 要件 | 改正前(〜令和8年9月) | 改正後(令和8年10月〜) |
|---|---|---|
| ① 企業規模 | 51人以上 | 51人以上(変更なし) |
| ② 労働時間 | 週20時間以上 | 週20時間以上(変更なし) |
| ③ 賃金 | 月額8.8万円以上 | 撤廃(賃金額を問わない) |
| ④ 雇用期間 | 2ヶ月超の見込み | 2ヶ月超の見込み(変更なし) |
| ⑤ 学生でないこと | 昼間学生は対象外 | 昼間学生は対象外(変更なし) |
変更後の加入要件(令和8年10月〜)は以下の4つです。
- 被保険者数51人以上の事業所に勤務している
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 2ヶ月を超える雇用の見込みがある
- 昼間学生でない
つまり、月収が8.8万円未満であっても、上記4つを満たせば社会保険加入が義務となりました。
3. 具体的に誰が新たに対象となるのか?
例えば、次のようなケースが新たに加入対象となります。
- 週22時間勤務・時給1,000円・月収約9.5万円 → もともと加入対象(変更なし)
- 週22時間勤務・時給800円・月収約7万円 → 改正前は非対象 → 令和8年10月から加入対象
- 週20時間勤務・時給700円・月収約6万円 → 改正前は非対象 → 令和8年10月から加入対象
賃金が低い短時間労働者ほど新たな対象者になる可能性が高く、特に小売・飲食・介護・運輸等で多くのパート労働者を雇用している事業所は注意が必要です。
4. 企業(事業主)への影響
(1)社会保険料の事業主負担が増加
新たに加入対象となった従業員の分だけ、事業主が負担する健康保険料・厚生年金保険料が増加します。
例)月収6万円の従業員1人を新規加入させた場合の概算(兵庫県・協会けんぽ)
| 保険の種類 | 保険料率(労使合計) | 事業主負担(月額概算) |
|---|---|---|
| 健康保険 | 約10.45% | 約3,135円 |
| 厚生年金 | 18.3% | 約5,490円 |
| 合計 | — | 約8,625円/月 |
(2)手続き面での対応
- 新たに対象となった従業員について、被保険者資格取得届を年金事務所に提出する
- 対象者のリストアップと給与計算システムへの反映
- 従業員への説明(手取りの変化、将来の保障が充実する旨)
5. 従業員(労働者)への影響
デメリット:手取りが減少する
社会保険加入により、給与から健康保険料・厚生年金保険料(労働者負担分)が控除されます。月収6万円の場合、月約4,300円(年約5万円)の手取り減少が生じる可能性があります。
メリット:将来・万一の保障が充実する
- 厚生年金に加入することで将来の年金額が増える
- 傷病手当金(病気・けがで休業した際に給与の約2/3が最大1年6ヶ月支給)が受け取れる
- 出産手当金(産前産後休業中に給与の約2/3が支給)が受け取れる
- 扶養の壁を気にせず働ける環境づくりにつながる
保険料調整制度(手取り減少を緩和)
政府は新たに加入対象となった労働者の手取り減少を緩和するため、「保険料調整制度」を設けています。一定の条件を満たした場合、加入後3年間は被保険者の保険料負担が軽減される仕組みです(事業主が一時的に追加負担した軽減額は還付されます)。
6. 2035年に向けた段階的拡大スケジュール
今回の賃金要件撤廃は「社会保険適用拡大」の一環であり、今後は企業規模要件も段階的に縮小されていきます。
| 施行時期 | 企業規模要件(被保険者数) | 主な変更点 |
|---|---|---|
| 令和6年(2024年)10月〜 | 51人以上 | 101人以上→51人以上に縮小 |
| 令和8年(2026年)10月〜 | 51人以上 | 賃金要件(8.8万円)撤廃(今回) |
| 令和9年(2027年)10月〜 | 36人以上 | 企業規模要件がさらに縮小 |
| 令和11年(2029年)10月〜 | 21人以上 | 中小企業にも拡大 |
| 令和14年(2032年)10月〜 | 11人以上 | 小規模企業にも拡大 |
| 令和17年(2035年)10月〜 | 規模要件撤廃 | 事実上すべての事業所が対象 |
現在(令和8年)は「51人以上」が対象ですが、2035年には企業規模要件が完全に撤廃され、数人規模のアルバイトでも週20時間以上勤務していれば社会保険加入義務が生じます。
7. キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)の活用
社会保険加入に伴う従業員の手取り減少への対応として、「キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)」が活用できます。
短時間労働者の労働時間を延長し、社会保険加入と合わせて処遇改善を行った場合、中小企業は最大75万円(大企業は最大75万円×2/3)の助成金を受給できます。
ポイント:キャリアアップ計画書は加入前日までに提出する必要があります。加入後に申請しても対象外となりますので、必ず事前に手続きを行ってください。
8. 企業が今すぐ行うべき対応チェックリスト
- ✅ 対象者の洗い出し:週20時間以上勤務かつ月収8.8万円未満のパート・アルバイトをリストアップ
- ✅ 従業員への説明:制度の内容(手取りの変化、将来の保障)を丁寧に説明
- ✅ 資格取得届の提出:対象者について年金事務所へ被保険者資格取得届を提出
- ✅ 給与計算システムの更新:新規加入者の保険料控除を反映
- ✅ キャリアアップ助成金の検討:処遇改善と合わせて助成金申請を計画
- ✅ 令和9年10月以降の準備:規模要件が36人以上に縮小されるため、現在40〜50人規模の企業は早めに対策を
まとめ
令和8年10月1日から、社会保険の「106万円の壁(賃金要件)」が廃止されました。51人以上の事業所では、週20時間以上勤務している従業員は賃金額に関わらず社会保険加入対象となります。
対応が遅れると遡及適用による保険料の追加徴収や、従業員とのトラブルにもつながりかねません。まだ対応が済んでいない事業所は早急に確認を進めてください。
また、2027年以降は企業規模要件も段階的に縮小されます。現在50人以下の企業も他人事ではありません。今から準備を始めることが将来の混乱を防ぐ最善策です。
社会保険の適用拡大への対応や、キャリアアップ助成金の活用についてお困りの事業主様は、西宮市の社会保険労務士事務所・竹田社労士事務所にお気軽にご相談ください。




