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【東京地裁判決】私傷病休職の「中断規定」は期間満了後の復職には使えない!1,000万円超の支払い命令から学ぶ就業規則の落とし穴を西宮の社労士が解説


「一度復職した社員が再び欠勤し始めた。就業規則の中断規定を使って、前の休職期間と今回の期間を通算できるはずだ」——そう考えて自然退職扱いにしたら、会社が1,000万円を超える損害賠償を命じられた裁判例が出ました。

2026年8月、東京地方裁判所で、私傷病休職の「中断規定」は「期間の途中」での復職にしか適用できず、「期間満了後」の復職には使えないという重要な判断が示されました。この判決は、社員の休職・復職・再休職という場面で必ずと言っていいほど問題になる事項を扱っており、すべての事業主・人事担当者が知っておくべき内容です。

そもそも「私傷病休職」と「中断規定」とは?

私傷病休職とは

私傷病休職とは、業務外の病気やケガ(うつ病・腰痛・骨折など)で働けなくなった社員に対して、一定期間(例:最長1年または2年)の休職を認める制度です。法律で義務付けられているわけではありませんが、多くの会社の就業規則で定められており、この期間を超えても復職できない場合は「自然退職」(解雇ではなく、退職事由の発生により退職となること)とする規定が一般的です。

中断規定(前後通算規定)とは

中断規定(前後通算規定)とは、「一度復職した後、同一・類似の病気で再度休職になった場合、前回の休職期間と今回の休職期間を合算(通算)して、休職期間満了を判断する」という就業規則の規定です。

たとえば、休職期間の上限が「1年」で、6ヶ月休職した後に復職し、2ヶ月後に同じ病気で再度休職した場合:

  • 中断規定あり:残りの休職期間は6ヶ月のみ(前の6ヶ月と今回の期間を合算)
  • 中断規定なし:今回の休職期間は新たに1年スタート

会社側は悪質な「休職→短期復職→再休職」の繰り返しを防ぐためにこの規定を設けますが、今回の裁判でその適用範囲が厳しく限定されました。

今回の裁判の概要(東京地裁 2026年8月)

どんな会社・どんな社員?

ペットフードの輸入販売などを営む東京都内の会社で働く労働者が、私傷病休職の満了を理由とした自然退職扱いを不服として提訴した事案です。

何が問題になったのか

この会社の就業規則には、以下のような中断規定がありました。

休職期間の途中で復職した従業員が、同一・類似の私傷病により再度休職した場合、前後の休職期間を通算する

一方、この社員が最初の休職から復職したのは「休職期間が満了するまさにその日(期間満了後)」でした。その後、わずか1週間で再び欠勤を開始し、再度私傷病休職に入りました。

会社は「中断規定を類推(趣旨を汲んで拡張適用)して、前後の期間を通算できる」と主張し、休職期間満了として自然退職扱いにしました。

裁判所の判断

東京地方裁判所(松下絵美裁判官)は、会社の主張を退け、自然退職を無効と判断しました。

判決のポイントは以下のとおりです。

  1. 中断規定の文言を厳格に解釈:就業規則には「期間の途中で復職した場合」に通算すると書かれている。今回は期間満了後の復職であり、規定の文言に当てはまらない
  2. 類推適用も認めない:会社は「趣旨を踏まえれば類推適用すべき」と主張したが、就業規則の退職事由は労働者に不利益な結果をもたらすものであり、厳格に解釈すべきとして退けた
  3. 復職後1週間での再欠勤も影響しない:わずか1週間で再び欠勤したとしても、規定上は新たな休職期間がカウントされるため、前後を通算する根拠はない

その結果、会社は1,000万円を超えるバックペイ(未払い賃金の遡及支払い)などの支払いを命じられました。

この判決から会社が学ぶべき3つの教訓

教訓①:「期間の途中」か「期間満了後」かで結論が真逆になる

今回の判決が示した最大のポイントは、「いつ復職したか」によって中断規定の適用可否が変わるということです。

復職のタイミング中断規定の適用結果
休職期間の途中で復職適用される前後の期間を通算できる
休職期間満了の日・満了後に復職適用されない新たな休職期間が始まる

期間満了の直前(例:あと2日残っている状態)で復職した場合は「途中」に該当しますが、期間満了の当日に形式的に復職させても「満了後」と判断されてしまうリスクがあります。

教訓②:就業規則の文言を「期間満了後」に対応させる必要がある

今回の会社の就業規則は「期間の途中で復職した場合」という文言でした。もし「期間満了後に復職した場合も含む」と明記していれば、結論が変わっていた可能性があります。

就業規則の中断規定を見直す際は、以下のような表現を検討してください(あくまで一例であり、実際の整備は社労士に相談することをお勧めします)。

「同一または類似の私傷病による休職が繰り返し行われた場合(休職期間の満了後に復職した場合を含む)、前後の休職期間を通算して休職期間の満了を判断する」

ただし、このような規定を設けること自体の合理性や、他の就業規則との整合性については、専門家に確認することが大切です。

教訓③:自然退職扱いにする前に必ず確認を

「休職期間が満了した」「中断規定に当てはまる」と判断して自然退職扱いにする前に、必ず就業規則の文言・社員の復職状況・医師の意見書などを確認してください。

特に以下のケースは慎重な対応が必要です。

  • 期間満了の直前・当日に復職した後、短期間で再休職した場合
  • 前回の休職期間とは別の病名で再休職しているが、関連性が疑われる場合
  • 産業医・主治医の意見が分かれている場合

また、自然退職扱いが後に「無効」と判断された場合、その間の賃金相当額をすべてバックペイとして支払う義務が生じます。今回のケースでは1,000万円を超える金額になりました。これだけの金額になるケースは珍しくなく、早期に確認・対応することのコストと比べても、事前の適切な対応が圧倒的に重要です。

社労士からひとこと:就業規則は「作りっぱなし」では危険です

今回の裁判で負けた会社は、決して悪質ではなかったと思います。「中断規定の趣旨から考えれば当然通算できるはず」という判断をした結果、1,000万円超の支払いを命じられました。

就業規則は「ひな型を参考に作った」「昔に専門家に作ってもらったが、その後見直していない」という会社が多いです。しかし、裁判所は就業規則の文言を厳密に読みます。会社の意図・常識・趣旨がどれだけ正しくても、書かれていない限りは適用されないのです。

特に、以下の規定は定期的な見直しが必要です:

  • 私傷病休職の期間・通算規定・自然退職の条件
  • 復職の判断基準・手続き(主治医・産業医の意見書の要否など)
  • 試用期間中の取扱い
  • 懲戒規定(近年の裁判例を踏まえたもの)

「ウチの就業規則は大丈夫か?」と少しでも気になった方は、ぜひ一度、社労士によるチェックを受けることをお勧めします。

まとめ

今回の東京地裁判決のポイントを整理すると、以下のとおりです。

  • 私傷病休職の中断規定(前後通算規定)は、「期間の途中で復職した場合」にしか適用されない
  • 「期間満了後に復職した場合」は対象外であり、新たな休職期間がスタートする
  • 会社が「類推適用すべき」と主張しても、退職事由は文言を厳格に解釈するとして退けられた
  • 自然退職が無効とされ、1,000万円超のバックペイが命じられた
  • 就業規則に「期間満了後に復職した場合も含む」と明記することで対応できる可能性がある

就業規則の整備・見直しについてお困りの方は、西宮市の社会保険労務士事務所SR武田社労士事務所までお気軽にご相談ください。休職・復職ルールの整備から日常の労務管理まで、経営者の皆様をしっかりサポートいたします。


情報提供元:全国社会保険労務士会連合会 NEWS HEADLINE(2026年8月12日)/株式会社 労働新聞社


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