「社長の奥さんを役員にして社会保険に加入させている」「外注している個人事業主を正社員扱いで社会保険に入れている」——こんな話を聞いたことはありませんか?
令和8年9月14日、厚生労働省が重要な通知を発出しました。個人事業主やフリーランスを法人役員や「勤務時間の短い正規型労働者」として健康保険・厚生年金保険に加入させていた事例について、被保険者資格の取扱いを明確化したのです。
この通知の結果、すでに1万1,610人が社会保険の被保険者資格を喪失しています。もし御社でも同様の対応をしていれば、今後の調査対象になるリスクがあります。
西宮市の社会保険労務士事務所・竹田社労士事務所が、この通知のポイントと企業が取るべき対策をわかりやすく解説します。
そもそも、何が問題だったのか?
社会保険(健康保険・厚生年金)に加入できるのは、「常用的使用関係」がある人、つまり会社に継続的に雇用されている人です。
しかし実際には、次のような「グレーゾーン」の事例が広まっていました。
- パターン①:個人事業主を「役員」として社保加入
実態は外注(業務委託)のフリーランスなのに、会社の役員として登記・社会保険加入させるケース - パターン②:フリーランスを「週短正社員」として社保加入
実際には自由な働き方をしている個人事業主なのに、「週10時間勤務の正社員」として社保に加入させるケース - パターン③:家族・親族への便宜的加入
実態としてほとんど働いていない配偶者や親族を役員・社員として社保加入させるケース
これらは、本来は国民健康保険や国民年金に加入すべき人を、会社の社会保険(健康保険・厚生年金)に不正に加入させるものです。国民健康保険と比べて保険料の自己負担が少なく、給付が手厚い社会保険の恩恵を受けるために行われていました。
厚労省通知のポイント:「形式」より「実態」で判断
今回の厚生労働省の通知は、契約書や登記上の形式ではなく、実態で判断するという原則を明確にしました。
判断の3つの基準
| 判断要素 | チェックポイント |
|---|---|
| ① 報酬の実態 | 報酬の額・支払方法が、雇用されている労働者と同様か? 業務完了ごとの請求払いになっていないか? |
| ② 労働時間・勤務形態 | 実際に会社の指定した時間・場所で働いているか? 出退勤の管理がされているか? |
| ③ 業務内容・指揮命令 | 会社の指示・命令のもとで働いているか? 複数の取引先を持つ自由な事業者ではないか? |
これらの実態を踏まえて、「事業所との常用的使用関係があるかどうか」を判断します。役員登記があっても、実態が外注業者であれば社会保険の被保険者にはなれません。
1万1,610人が資格喪失!調査・是正の流れ
今回の通知に先立ち、日本年金機構が全国の事業所を調査した結果、不適切な社会保険加入が1万1,610件確認され、これらの方々の被保険者資格が喪失(取り消し)されました。
資格喪失となった場合、以下のような影響が生じます。
- 健康保険証が使えなくなる(国民健康保険への切り替えが必要)
- 過去に遡って保険料の返還・追加徴収が発生する可能性
- 医療費の自己負担分が変わる場合がある
- 年金受給額への影響(厚生年金加入期間の変更)
本人だけでなく、扶養家族も健康保険の資格を失うケースがあり、関係者への影響は広範囲に及びます。
どんな会社が調査対象になりやすいのか?
日本年金機構は、定期的に事業所の社会保険加入状況を調査しています。特に以下のような事業所は調査が入りやすい傾向があります。
- 役員数が多い・役員報酬が著しく低い(月5〜10万円程度)
- 勤務実態が確認しにくい(テレワーク・在宅中心・他社との兼業)
- 同一人物が複数の会社の役員を兼務している
- インボイス制度への登録がある(個人事業主として活動している証拠)
- 確定申告で事業所得があるのに社会保険に加入している
特にインボイス登録業者として活動しながら、社員・役員として社会保険に加入している人は、今後の調査で問題視される可能性が高まっています。
中小企業が今すぐ確認すべき3つのこと
① 役員・社員の実態確認
現在、社会保険に加入している役員・社員が「本当に会社の指揮命令のもとで働いているか」を確認しましょう。特に以下の点をチェックしてください。
- タイムカードや業務日報で勤務実態が証明できるか
- 報酬が月固定で支払われているか(請求書払いになっていないか)
- 他の会社・取引先からも収入を得ていないか(個人事業主的な働き方をしていないか)
② 非常勤役員・短時間勤務役員の見直し
役員報酬が非常に低額(月5万円未満など)で、かつ他に本業がある場合は、社会保険の加入資格がないと判断されるリスクがあります。報酬の設定が適切かどうか、顧問社労士や税理士に相談することをお勧めします。
③ 記録の整備
万が一調査が入った場合に備えて、勤務実態を示す書類(タイムカード、業務報告書、会議への出席記録、社内メールなど)を整備しておきましょう。
まとめ:「形だけの社保加入」は通じない時代へ
今回の厚生労働省の通知と1万1,610人の資格喪失は、「形式的な契約書があっても、実態が伴わなければ社会保険の被保険者にはなれない」という原則を改めて明確にしたものです。
中小企業では、節税・コスト削減の観点から、グレーゾーンの社会保険加入が行われてきた実態があります。しかし今後は調査が厳格化される方向にあり、不適切な加入は資格喪失だけでなく、過去分の保険料追徴やペナルティにつながる可能性もあります。
「うちは大丈夫?」と思ったら、ぜひ一度社労士にご相談ください。
竹田社労士事務所(西宮市)では、社会保険の加入要件の確認、適正な給与・役員報酬の設定、日本年金機構の調査対応など、社会保険に関するご相談を承っております。お気軽にお問い合わせください。

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