「年次有給休暇(有給休暇)を取得するには、全労働日の8割以上出勤していることが条件」というルールをご存知でしょうか?
では、もし会社から不当に「来なくていい」と告げられた期間は、この「8割」の計算にどう影響するのでしょうか?このシンプルな疑問に最高裁判所が明確な答えを出したのが、平成25年(2013年)の「八千代交通事件」です。
年次有給休暇の取得条件をおさらい
労働基準法第39条では、年次有給休暇が発生するための条件として次の2つを定めています。
- 雇入れの日から6ヶ月以上、継続して勤務していること
- その期間の全労働日の8割以上出勤していること
2年目以降も毎年この出勤率を満たさないと、その年度分の有給休暇が付与されない場合があります。「出勤率8割」という数字は非常に重要で、この計算が正確に行われているかどうかが今回の裁判の焦点となりました。
八千代交通事件とは?事件の概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 事件名 | 八千代交通事件 |
| 裁判所 | 最高裁判所第一小法廷 |
| 判決日 | 平成25年(2013年)6月6日 |
| 当事者 | タクシー会社(使用者) vs 元従業員(労働者) |
| 主な争点 | 無効な解雇期間を出勤率の計算に含めるべきか否か |
| 判決の結論 | 不当解雇の期間も「出勤日」としてカウントすべき |
事件のあらすじをわかりやすく解説
① 会社が従業員を解雇
タクシー会社である八千代交通は、ある従業員に解雇を通知しました。解雇された従業員は当然、その後は出勤できない状態になります。
② 解雇は「無効(不当解雇)」と判断される
後に行われた裁判で、この解雇には合理的な理由がなく無効であることが確定しました。つまり、法律上はずっと従業員であり続けていたにもかかわらず、会社が不当に就労を拒んでいたことになります。
③ 解雇期間中の「出勤率」が問題に
解雇期間中に有給休暇の付与基準日が到来したため、「出勤できなかった期間を出勤率の計算にどう扱うか」が争われました。
- 会社の主張:実際に出勤していないのだから「欠勤」扱いにすべき → 出勤率が低下 → 有給休暇は発生しない
- 従業員の主張:会社が不当に出勤を拒んだのだから、出勤できなかった責任は会社にある → 出勤日としてカウントすべき
最高裁の判断:「不当解雇の期間は出勤扱い」
最高裁の判示内容
最高裁は従業員側の主張を認め、次のように判示しました。
「使用者から正当な理由なく就労を拒まれたために就労することができなかった日は、出勤日数に算入すべきものとして全労働日に含まれるもの」
つまり、会社の都合(それも違法な理由)で出勤できなかった日は、出勤率の計算上「出勤した」とみなすべきという判断です。
なぜそう判断したのか?
最高裁がこのように判断した理由は次のとおりです。
- 出勤できなかったのは従業員の責任ではない:解雇が無効である以上、就労できなかったのは使用者側の違法行為が原因
- 不利益を労働者に転嫁するのは不当:会社の違法行為によって生じた不利益(有給休暇の不発生)を労働者に押し付けることは許されない
- 有給休暇制度の趣旨に反する:年次有給休暇制度は労働者の心身の疲労回復を目的とするもので、使用者の違法行為によって権利を失わせることは制度の趣旨に反する
出勤率計算の整理:どんな日が「出勤扱い」になるか
| 欠勤の種類 | 出勤率計算の扱い | 根拠 |
|---|---|---|
| 不当解雇・無効解雇期間 | 出勤扱い | 八千代交通事件(最高裁判決) |
| 会社都合の自宅待機(使用者責任) | 出勤扱い | 同様の考え方が適用される |
| 産前産後休業・育児休業・介護休業 | 出勤扱い | 労働基準法第39条第10項 |
| 労働災害による休業 | 出勤扱い | 労働基準法第39条第10項 |
| 労働者自身の体調不良・私的な欠勤 | 欠勤扱い(出勤率に影響) | 原則どおり |
経営者・人事担当者が押さえるべきポイント
- 安易な解雇は長期的なリスクをはらむ:解雇が無効と判断された場合、賃金の支払い義務に加え、解雇期間中の有給休暇の発生も認めなければなりません
- 出勤率計算のルールを正確に把握する:産前産後休業・育児休業・介護休業・労災休業は法令上「出勤したもの」とみなされます(労基法第39条第10項)。これを誤って欠勤扱いにしていると法令違反になります
- 自宅待機命令を安易に出さない:正当な理由のない自宅待機命令は、後の有給休暇計算でも「出勤扱い」とされるリスクがあります
- 有給休暇の付与日数・取得記録を正確に管理する:有給休暇の管理は労働基準法上の義務です。誤った管理はトラブルの原因となります
従業員の方が知っておくべきポイント
- 不当解雇されても有給休暇の権利は守られる:会社の違法行為によって出勤できなかった期間は、出勤率の計算で「出勤」とカウントされます
- 解雇が有効かどうか確認することが重要:解雇が正当かどうかは複雑な法的判断が必要です。「本当に解雇は有効なのか?」と疑問を感じたら専門家に相談しましょう
- 年次有給休暇は労働者の権利:有給休暇は会社から「もらう」ものではなく、法律上当然に発生する労働者の権利です
まとめ
八千代交通事件(最高裁 平成25年6月6日)が示したのは、「会社の違法行為(不当解雇)によって出勤できなかった期間は、有給休暇の出勤率計算において出勤日扱いにすべき」というルールです。
- 不当解雇・無効解雇の期間は出勤率計算上「出勤扱い」
- 使用者の都合(違法な理由)で就労できなかった日も同様
- 産前産後休業・育児休業・介護休業・労災休業は法令上当然に出勤扱い
- 経営者は解雇・自宅待機命令を慎重に行う必要がある
年次有給休暇の計算や労務管理に関してご不明な点がある場合は、お気軽にご相談ください。西宮市の社会保険労務士事務所として、中小企業の労務管理をトータルでサポートします。

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