2026年6月17日、東京地方裁判所が注目の判決を下しました。男性が育児休業を取得しようとしたところ、同僚から「無責任」「自分と家族のことだけ考えているとしか思えない」などのメッセージが送られたとして、院長と同僚に慈謝料など22万円の連帯支払いを命じたのです。
この判決は「パタニティハラスメント(パタハラ)」に関するもので、使用者(経営者)も連帯責任を負うという点で、事業主にとって非常に重要なメッセージを含んでいます。
本記事では、この判決の内容を詳しく解説するとともに、事業主が今すぐ取り組むべきパタハラ防止対策をご紹介します。
この記事でわかること
- パタハラ(パタニティハラスメント)とは何か
- 東京地裁判決の詳細と事業主が問われた責任
- なぜ業務時間外のメッセージでも使用者責任が認められたのか
- 事業主がすべきパタハラ防止の5つの具体的対策
1. パタニティハラスメント(パタハラ)とは?
「パタハラ」とは、父親(パタニティ)を意味する”Paternity”とハラスメントを組み合わせた言葉で、男性が育児休業や育児のための短時間勤務などを取得しようとした際に、上司・同僚などから受ける嘴がらせや不利益な取扱いを指します。
マタハラ(マタニティハラスメント)が女性の妊娠・出産に関する嘴がらせであるのに対し、パタハラは男性の育児参加に関する嘴がらせです。
パタハラの具体例
- 「育休を取るなんてあり得ない」「男のくせに」などの言動
- 育休申請を拒否または強く牡制する
- 育休取得後に降格・減給・不利益な配置換えを行う
- 「迷惑をかけている」「無責任だ」などのメッセージを送る
- 育休取得者を孤立させる・無視する
パタハラは法律違反になります
育児・介護休業法では、育児休業の申出・取得を理由とした不利益取扱いを禁止しています(第10条)。また、职場でのハラスメント防止措置義務(同法第25条)も事業主に課されています。
2022年の育児介護休業法改正により、职場でのパタハラ等の防止措置が義務化され、事業主は適切な防止措置を講じる法的義務を負っています。
2. 東京地裁判決の内容を詳しく解説
事案の概要
東京都内の診療所で働く男性労働者が、育児休業の取得に際して同僚から嘴がらせのメッセージを受け取ったとして、院長(使用者)と同僚に対して損害賞償を求めて提訴しました。
同僚が送ったメッセージには「無責任」「自分と家族のことだけ考えているとしか思えない」などの言葉が含まれており、裁判所はこれを人格的利益を侵害する不法行為と評価しました。
裁判所の判断ポイント
① 同僚のメッセージは不法行為にあたる
「無責任」「自分と家族のことだけ考えている」といった言葉は、相手の人格的利益を侵害するものであり、不法行為(民法709条)に当たると判断されました。
② 業務との密接な関連性
メッセージの内容は当該医院の業務に密接に関連しており、純粋に私的なやり取りとはいえないと認定されました。「業務時間外に送ったから関係ない」という言い訳は通用しませんでした。
③ 院長(使用者)の使用者責任
終業時間後のやり取りであっても、業務との関連性がある以上、院長(事業主)の使用者責任(民法715条)は免れないと判断されました。その結果、院長と同僚に合記22万円の連帯支払いが命じられました。
この判決が事業主にとって重要な理由
この判決の最大のポイントは、「直接ハラスメントを行っていない使用者も連帯責任を負う」という点です。事業主が意図していなくても、职場環境の整備を怠った場合には、部下や同僚によるハラスメントについても損害賞償責任を問われます。
3. なぜ業務時間外のメッセージでも責任を問われるのか?
「勤務時間外のプライベートな行為だから会社は関係ない」と考えている方も多いかもしれません。しかし、裁判所は今回の判決で業務との密接な関連性を重視しました。
特に以下のような場合は、たとえ業務時間外・プライベートの連絡手段(LINEなど)であっても、使用者責任が認められる可能性があります。
- メッセージの内容が職場の業務に関連している
- 勤務上の立場(上司・先輩など)を背景にした圧力がある
- 職場のグループチャット等で行われている
近年はLINEやSlackなどのコミュニケーションツールが職場でも使われることが多く、業務時間外のやり取りも「職場のコミュニケーション」として捕えられるリスクがあります。事業主は職場内外のコミュニケーション全般に目を向ける必要があります。
4. 事業主がすべきパタハラ防止の5つの対策
対策① ハラスメント防止方针の明確化と周知
まず、就業規則やハラスメント防止規程にパタハラを明記し、全従業員に周知してください。「パタハラも不法行為であり、懲戒処分の対象になる」ということを明確にすることが重要です。
対策② 管理職・全従業員への研修実施
パタハラは管理職による言動だけでなく、今回の判決のように同僚間でも発生します。管理職だけでなく全従業員を対象に、パタハラの定義・事例・法的リスクについて研修を実施しましょう。
対策③ 相談窓口の設置と周知
ハラスメントを受けた従業員が安心して相談できる窓口を設置します。「相談したことで不利益を受けない」という安心感を与え、問題を早期に把握できる体制を整えてください。
対策④ 育休取得者への業務引き継ぎ体制の整備
「迷惑をかける」という空気が生まれる背景の多くは、業務の属人化です。業務マニュアルの整備・業務分散・代替要員の確保を進めることで、育休が取りやすい環境になります。
なお、両立支援等助成金(育休中等業務代替支援コース)を活用すると、育休期間中に業務を代替する人材(派遣・パートなど)の貹用を国が助成してくれます。
対策⑤ 業務時間外コミュニケーションのルール整備
業務用チャットツールの利用ルールを定め、「育休中の従業員への業務連絡は原則禁止」「退勤後のメッセージへの即時返信は不要」などを明文化しましょう。これにより、業務時間外のハラスメントリスクを低減できます。
5. 男性育休の取得促進は事業主にとってもメリットがある
- 助成金の活用:両立支援等助成金(出生時両立支援コース)で男性育休1名取得ごとに最大30万円(中小企業)
- 離職率の低下:育休が取りやすい職場は従業員の定着率が向上
- 採用力の強化:「働きやすい会社」として求人でも優位性を発揮
- 法的リスクの低減:今回のような賞償命令リスクを未然に防げる
まとめ
今回の東京地裁判決(2026年6月17日)は、「育休を取る男性従業員への同僚の嘴がらせ」について、使用者(院長)も連帯責任を負うと判断した重要な判決です。
事業主として、ハラスメント防止の仕組みを整え、育休が取りやすい職場環境を作ることが、従業員を守るだけでなく、会社自身を法的リスクから守ることにもつながります。
就業規則・ハラスメント防止規程の整備、育児介護休業規程の作成・改定、助成金の申請サポートなど、西宮市の社会保険労務士事務所・SR武田社会保険労務士事務所がお手伝いします。お気軽にご相談ください。
- 東京都内の診療所で働く男性が育休取得に関し同僚から嘴がらせを受けた事案
- 同僚のメッセージ(「無責任」等)が人格的利益を侵害する不法行為と認定
- 業務終了後の連絡でも業務との密接な関連があるため院長の使用者責任を認定
- 院長・同僚に慈謝料等22万円の連帯支払いを命令
- 情報提供:全国社会保険労務士会連合会(出典:株式会社労働新聞社)

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