「うつ病などの精神疾患は、従業員が自分から申告しない限り会社はわからない」——そう思っている経営者の方は多いかもしれません。しかし、最高裁判所は「申告がなくても会社の責任はなくならない」という重要な判断を示しています。
本記事では、メンタルヘルスと使用者の安全配慮義務に関するリーディングケースである東芝(うつ病・解雇)事件(最高裁 平成26年3月24日判決)をわかりやすく解説します。西宮市・阪神エリアの中小企業の経営者・人事担当者の方にぜひお読みいただきたい内容です。
1. 東芝事件とはどんな事件か?
東芝の従業員(40代男性)は、長期にわたる長時間労働や業務プレッシャーの中でうつ病を発症しました。会社は産業医による面談を実施しましたが、従業員は面談の際に自身のうつ病の状態を正直に申告しませんでした。
その後、休職・復職を繰り返す中で症状が悪化し、最終的に解雇されました。従業員は「会社が安全配慮義務を果たさなかった」として損害賠償を求めて提訴しました。
2. 裁判所の判断(最高裁 平成26年3月24日)
最高裁判所は以下のように判断しました。
会社の安全配慮義務違反を認定
使用者(会社)は、労働者の心身の健康状態について申告がない場合であっても、業務の遂行状況や長時間労働の実態など客観的に把握できる情報から健康上のリスクを認識できる場合は、安全配慮義務として適切な対応をとる必要があると判示しました。
つまり、従業員が申告しなかったことは「会社は知らなかったから責任なし」の免罪符にはならないのです。
ただし過失相殺(損害賠償の減額)は認める
一方で、従業員が精神疾患の状況を正確に申告しなかったことは、損害賠償額の算定に際して考慮できる(民法418条の過失相殺的な処理)とも判示しました。
実際には従業員の過失が5割と認定され、会社が負担する損害賠償額は減額されました。
3. この判決が中小企業に与える意味
この判決から、使用者として押さえるべきポイントは3つです。
① 「知らなかった」では責任を免れない
客観的な状況(長時間労働・業務ミスの増加・欠勤・元気のなさなど)から部下の不調を認識できたにもかかわらず放置した場合、会社は安全配慮義務違反を問われる可能性があります。
② ラインケア(上司による気づき)が重要
産業医面談や従業員の自己申告に頼るだけでなく、日常的な上司によるラインケア(観察・声かけ)が求められます。「いつもと違う」に早く気づくことが、会社の責任リスクを下げることにもつながります。
③ 復職プロセスの管理が特に重要
東芝事件では復職後の業務移行過程での対応も問題となりました。主治医の意見・産業医の判断を踏まえた段階的な復職プログラム(リワーク支援など)を整備することが重要です。
4. 会社が取るべき具体的な対策
- ストレスチェック制度の導入・活用(50人以上の事業場は義務、50人未満も努力義務)
- 産業医・保健師との連携強化:定期的な職場巡視・相談体制の整備
- 管理職向けメンタルヘルス研修(ラインケア研修)の実施
- 復職支援規程の整備:復職判断基準・試し出勤制度・段階的復職の手順を明文化
- 長時間労働の是正:36協定の適切な設定と実態管理
5. 社労士からのアドバイス
「うちの従業員はみんな元気そうだから大丈夫」というのは危険な思い込みです。メンタルヘルス不調は、本人が自覚していても周囲に言い出せないケースが非常に多いです。
重要なのは、従業員の自己申告に頼るだけでなく、会社側が積極的に職場環境・労働時間・業務量を管理し、不調のサインを早期に察知できる仕組みを作ることです。
就業規則への休職・復職規程の整備、メンタルヘルス指針に沿った社内体制づくりなど、ご不明な点があればお気軽に当事務所へご相談ください。
まとめ
- 東芝事件(最高裁 平成26年3月24日):うつ病を申告しなかった従業員でも、会社の安全配慮義務違反が認定される
- 客観的に認識できる情報(長時間労働・行動変化等)がある場合、会社は対応義務を負う
- ただし、従業員の申告義務違反は過失相殺として損害賠償額に考慮される
- 対策:ラインケア研修・ストレスチェック・復職支援規程の整備が重要

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