「不当解雇されたけど、生活があるからアルバイトをしていた——そうしたら会社に勝訴しても賃金を全額もらえないの?」
こんな疑問を持ったことはありませんか?
不当解雇(使用者の責に帰すべき事由による解雇)をされた場合、労働者は解雇期間中の賃金全額を請求できるのが原則です。しかし、その間に他の仕事で収入を得ていた場合(これを「中間収入」といいます)、問題が複雑になります。
今回は、この中間収入の取り扱いを明確にした最高裁判所の重要判例、米極東空軍山田部隊事件(昭和37年7月20日・最高裁第二小法廷判決)をわかりやすく解説します。
・「中間収入」とは何か(不当解雇との関係)
・米極東空軍山田部隊事件の概要と最高裁の判断
・中間収入を控除できる上限(平均賃金の4割ルール)
・経営者・労働者それぞれが知っておくべき実務ポイント
「中間収入」とは何か?
まず用語の整理から始めましょう。
中間収入とは、使用者(会社)の責任で解雇された期間中に、労働者が別の会社や仕事で得た収入のことです。
「不当解雇された側なのに、なぜ稼いだお金を返さないといけないの?」と思う方も多いでしょう。この問題を理解するには、民法の基本原則を知る必要があります。
民法536条2項の「利益償還義務」
民法536条2項は、次のように定めています(ポイントを簡略化)。
【本文】使用者の責に帰すべき事由によって労働者が仕事ができなくなった場合(=不当解雇)、労働者は賃金を請求できる。
【但書】ただし、自己の債務(労働義務)を免れたことによって利益を得た場合は、使用者に返還しなければならない。
つまり、「解雇されなければ働いていたはずの時間に、他で働いて稼いだ収入」は、会社に賃金を請求する際に差し引く義務がある、というわけです。
しかし、ここで問題になるのは「全額差し引かれるのか?」という点です。
米極東空軍山田部隊事件の概要
どんな事件だったのか
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 事件名 | 米極東空軍山田部隊事件 |
| 裁判所・判決日 | 最高裁判所第二小法廷・昭和37年(1962年)7月20日 |
| 当事者 | 日本国内の米軍施設に雇用されていた日本人労働者 |
| 問題の概要 | 使用者の責任による解雇(不当解雇)中に、労働者が他の職場で収入を得ていた |
| 争点 | 解雇期間中の賃金請求から、中間収入を全額控除できるか?控除できる場合の上限は? |
この事件は、不当解雇された労働者が解雇期間中の賃金全額を請求したのに対し、使用者側が「解雇中に他で稼いだ中間収入を全額差し引くべきだ」と主張して争ったものです。
最高裁はどう判断したか
最高裁は以下の2点を明確にしました。
① 中間収入は原則として控除できる
解雇中に別の仕事で得た収入(中間収入)は、民法536条2項但書に基づき、使用者に償還すべき「利益」にあたる。
② ただし、控除できるのは「平均賃金の4割まで」
労働基準法第26条(休業手当=平均賃金の6割保障)の趣旨から、使用者は平均賃金の6割を超える部分についてのみ中間収入を控除できる。
→ 言い換えると、労働者は最低でも平均賃金の60%を受け取る権利がある。
「平均賃金の4割ルール」をわかりやすく解説
この判決のポイントは「平均賃金の4割までしか控除できない」という制限です。具体例で確認しましょう。
具体例:月給30万円の従業員が不当解雇され、解雇期間中に20万円の中間収入を得た場合
| 項目 | 金額 | 説明 |
|---|---|---|
| 解雇前の月給(=平均賃金) | 30万円 | 元々の賃金 |
| 解雇期間中の中間収入 | 20万円 | 他の職場で稼いだ収入 |
| 控除できる上限(平均賃金の4割) | 12万円 | 30万円 × 40% |
| 実際に控除できる額 | 12万円(上限まで) | 中間収入20万円 > 上限12万円 → 上限の12万円 |
| 労働者が受け取れる賃金 | 18万円 | 30万円 − 12万円 |
中間収入が少なかった場合(例:5万円)は、その5万円だけ控除します(上限の12万円より少ないため)。
「中間収入の全額か、平均賃金4割のいずれか低い方を控除する」と覚えましょう。
なぜ「6割保障」が基準になるのか——労働基準法26条との関係
最高裁がこの基準を採用した根拠は、労働基準法第26条(休業手当)にあります。
労基法26条は、「使用者の責めに帰すべき事由による休業」の場合、使用者は平均賃金の60%以上の休業手当を支払わなければならないと定めています。
最高裁はこの趣旨を活用し、「不当解雇の場合も、労働者は少なくとも平均賃金の6割は受け取れる」という解釈を導きました。
| 場面 | 根拠条文 | 最低保障額 |
|---|---|---|
| 使用者都合の休業 | 労基法26条(休業手当) | 平均賃金の60%以上 |
| 不当解雇中(中間収入あり) | 民法536条2項+労基法26条の趣旨 | 平均賃金の60%以上 |
これにより、「不当解雇された労働者が副業で頑張って稼いでも、それがすべて会社の取り分になってしまう」という不公平な結果を防いでいます。
実務で知っておくべき3つのポイント
① 中間収入の「控除対象」は限定される
すべての収入が「中間収入」として控除されるわけではありません。以下のような収入は控除の対象外とされる場合があります。
- 解雇がなくても得られた収入(もともと持っていたアルバイトや副業の収入)
- 失業給付(雇用保険の基本手当)——これは中間収入ではなく保険給付
- 解雇とは無関係な資産所得(株の配当・不動産収入など)
控除の対象になるのは、「解雇されて時間ができたから」稼ぐことができた収入に限られます。
② 労働者は中間収入を開示する必要がある
不当解雇を争う裁判では、労働者側が解雇期間中に中間収入を得ていた場合、その金額を開示する義務があります(隠蔽すると後のトラブルの原因になります)。
裁判所は実態に基づいて公正に判断しますが、証拠として収入証明書・源泉徴収票・確定申告書などの提出を求められることがあります。
③ 「全額を取り戻せる」と思い込まない
不当解雇された労働者が「必ず解雇前の全給与が戻ってくる」と考えるのは、注意が必要です。
- 中間収入があれば、その分(上限4割)が差し引かれる
- 解雇無効・復職が認められる場合と、金銭解決(和解金・損害賠償)になる場合がある
- 裁判には時間・費用がかかるため、総合的な得失を弁護士・社労士と相談することが重要
経営者が知っておくべきこと
この判例は、不当解雇のリスクをあらためて示しています。
・不当解雇が認定された場合、たとえ相手が中間収入を得ていても、平均賃金の60%以上の支払いは免れない
・長期の解雇紛争になるほど、会社が負担すべき賃金総額は増大する
・解雇は「最後の手段」として、事前に社労士・弁護士と十分な検討を行うことが不可欠
特に、「業績が悪いから解雇する」「なんとなく合わないから解雇する」といった合理的理由のない解雇は、不当解雇と判断されるリスクが高く、多額のバックペイ(解雇期間中の賃金)支払いを命じられる可能性があります。
まとめ
米極東空軍山田部隊事件から学べる重要なポイントをまとめます。
- 不当解雇(使用者の責任による解雇)中に得た中間収入は、原則として賃金請求から差し引かれる
- ただし、控除できるのは平均賃金の4割まで(労基法26条の趣旨)
- 労働者は最低でも平均賃金の60%を受け取る権利がある
- 「もともと得られた収入」「失業給付」などは中間収入に含まれない場合がある
- 解雇トラブルは長期化するほど双方の損失が大きくなるため、事前の適切な対応が最善策
「解雇しても、相手が別で働いていれば賃金を払わなくていい」——こんな誤解は危険です。裁判所は労働者の最低限の生活保障を手厚く守っており、不当解雇のコストは想像以上に大きくなる場合があります。
解雇を検討されている経営者の方、または不当解雇を受けたと感じている従業員の方は、ぜひ一度社会保険労務士にご相談ください。
参考:厚生労働省「確かめよう労働条件」判例紹介|中間収入の控除(米極東空軍山田部隊事件)|最高裁判所第二小法廷 昭和37年7月20日判決

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