「試用期間中に本採用を断りたい…でも、訴えられたらどうしよう」と悩んでいませんか?
実は、試用期間中の「本採用拒否」は非常にデリケートな問題です。理由がなければ無効とされるケースも多い一方で、適切な理由があれば有効と認められます。
2026年5月、東京地裁がまさにそのような判断を下しました。一級技士の資格を持ちながら「常識を欠く行動」を繰り返した社員に対する本採用拒否を、裁判所は有効と認定したのです。
この記事では、その判決のポイントと、事業主が試用期間中に知っておくべき実務上の注意点を、西宮市の社会保険労務士がわかりやすく解説します。
- 東京地裁「一級技士・本採用拒否」事件の概要
- 本採用拒否が有効になる3つの条件
- 試用期間中に事業主がすべき実務対応
1. 事件の概要──「資格持ち」でも非常識な行動が続いた
今回の事件は、造船・海運・建設・土木を手がける会社が一級技士の資格を持つ中途採用社員の本採用を拒否したことが争われたものです(東京地裁、2026年)。
採用時の期待と実際の行動
会社はその社員を「一級技士」としての資格と経験を見込んで採用しました。工事現場の管理業務を担当することが期待されていました。
ところが、試用期間中に以下のような「常識を欠く行動」が繰り返されました:
- 🔑 会社の車のカギをコンビニ店員(まったくの他人)に預けた
- 😴 勤務中に居眠りを繰り返した
会社はこうした行動を理由に本採用を拒否しましたが、社員側はこれを不当として提訴しました。
2. 裁判所の判断──本採用拒否は有効
東京地裁は、会社の本採用拒否を有効と判断しました。
「会社の車のカギを完全な他人に預けるといった行動や、勤務中の居眠りは、一級技士として工事現場を管理する立場にある者として、期待された能力が明らかに欠如していることを示すものであり、会社が『資質・品格を欠く』と判断したことはやむを得ない」
つまり、資格があっても「社会人・社員としての最低限の常識や責任感がない」と判断できる行動があれば、本採用拒否が認められる、ということです。
3. 試用期間と本採用拒否の法的ルール
そもそも、なぜ本採用拒否は難しいのでしょうか?まず基本的な法的ルールを確認しましょう。
試用期間とは「解約権留保付き労働契約」
法律上、試用期間は「解約権留保付き労働契約」と位置づけられています。採用時点で労働契約はすでに成立しており、会社が「本採用を拒否する権利(解約権)」を留保している状態です。
つまり、試用期間中は「仮採用」ではなく「すでに社員」なのです。
本採用拒否が認められる3つの条件
判例(最高裁・三菱樹脂事件など)では、本採用拒否が有効とされるには以下の条件が必要とされています:
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| ①客観的合理的理由 | 能力不足・勤務態度不良・経歴詐称など、客観的に見て「不採用にするだけの理由」があること |
| ②社会通念上の相当性 | その理由の重さが「本採用拒否という措置」に見合っていること(軽微なミス1回だけでは不可) |
| ③注意指導・改善機会の付与 | 事前に問題点を本人に伝え、改善の機会を与えたこと(いきなり拒否は原則NG) |
4. 今回の判決のポイント──なぜ有効と認められたか
ポイント①「一級技士」として採用した専門性への期待を裏切った
会社は専門的な資格・経験を評価して採用しました。にもかかわらず、現場管理者としての基本的な責任感(会社の資産を守る、業務中の覚醒維持)を欠いていました。「採用時に期待した能力・資質がない」という客観的事実が認定されました。
ポイント②「常識を欠く行動の繰り返し」で改善がなかった
1回の過失ではなく、「繰り返し」行われた点が重要です。注意を受けても改まらない、改善の意欲が見られないという事実が「本採用に値しない」と判断する根拠になりました。
ポイント③行動の「重大性」が認められた
会社の車のカギを他人に預けるという行為は、盗難・事故のリスクや会社への損害につながりかねない重大な行動です。「ちょっとしたミス」ではなく、社員として致命的な問題行動と裁判所が評価しました。
5. 事業主が試用期間中にすべき実務対応
✅ やるべきこと
- 問題行動をその都度、書面で記録・注意指導する
口頭注意だけでなく「○月○日、△△について指導した」という記録を残す。メール・業務日報でもOK。 - 試用期間の目的(評価基準)を採用時に明示する
「試用期間中は、業務遂行能力・協調性・勤務態度を評価します」と就業規則・労働契約書に明記する。 - 複数の問題行動を積み上げてから判断する
1回だけで本採用拒否すると、裁判で「いきなり」と判断されるリスクがある。繰り返し・改善なしが重要。 - 本採用拒否前に改善の機会を与える
「このままでは本採用が難しい」と明確に伝え、改善の機会を確認する。それでも改善がなければ拒否の正当性が高まる。
❌ やってはいけないこと
- 試用期間後に突然「本採用しない」と伝える
- 理由を文書化せず「なんとなく合わなかった」だけで拒否する
- 性別・年齢・国籍など差別的な理由で本採用を拒否する(違法)
- 試用期間が終了してから後付けで理由を探す
試用期間の延長も選択肢
「もう少し様子を見たい」という場合は、就業規則に試用期間延長の規定があれば試用期間をさらに延長することも可能です(合理的理由が必要)。本採用か拒否かの二択で焦らず、必要に応じて延長も活用しましょう。
6. まとめ
📌 判決のポイント まとめ
- ✅ 一級技士の資格があっても、採用時に期待された能力・資質が欠如していれば本採用拒否は有効
- ✅ 会社の車のカギを他人に預ける・勤務中居眠りという重大な問題行動の繰り返しが決め手
- ✅ 本採用拒否が有効になるには①客観的理由②相当性③注意・改善機会の付与が必要
- ✅ 試用期間中は問題行動を記録し、注意指導のエビデンスを積み上げることが重要
試用期間は、会社にとっても労働者にとっても、互いの適性を見極める大切な期間です。「採用してしまったら終わり」ではありませんが、本採用拒否には法的なハードルがあることも事実です。
「試用期間の運用方法を見直したい」「就業規則に試用期間の規定を整備したい」「本採用拒否を検討しているが適切な対応が知りたい」など、お悩みの事業主の方は、ぜひ当事務所にご相談ください。
参考:「一級技士の本採用拒否有効 常識欠く行動繰返し 東京地裁」(労働新聞、2026年5月28日)

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