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職場のセクハラで会社はどこまで責任を負う?4つの重要判例を社労士がわかりやすく解説


「うちの社員が職場でセクハラをしてしまった…。会社としても責任を問われるのだろうか?」

「セクハラの相談を受けたが、どこまで対応すればいいのかわからない」

「フリーランスへのセクハラでも、会社は責任を負うのか?」

このような疑問を持つ経営者・人事担当者の方は多いのではないでしょうか。

セクシャルハラスメント(セクハラ)は、被害者個人の問題にとどまらず、会社(使用者)の法的責任にも直結する重大なリスクです。適切な対策を怠ると、損害賠償請求はもちろん、会社の社会的信用まで失いかねません。

今回は、セクハラをめぐる4つの重要判例をもとに、会社がどのような場合に責任を負うのか、どのような対策が必要なのかを社労士がわかりやすく解説します。

セクハラに関する基本的な法的方向性

まず、判例を見る前に、セクハラに関する法律上の基本的な考え方を整理しておきましょう。

  1. セクハラは不法行為:セクハラは被害者の人格的利益や「働きやすい職場環境のなかで働く利益」を侵害する行為として、損害賠償請求の対象となりえます。
  2. 会社の使用者責任:従業員がセクハラ(不法行為)を行った場合、会社も使用者として損害賠償責任を負う場合があります。
  3. 職場環境配慮義務:会社は労働者に対して「働きやすい良好な職場環境を維持する義務」を負っており、これを怠ると債務不履行または不法行為として責任を問われます。

では、具体的な判例で確認してみましょう。

判例①:海遊館セクハラ事件(最高裁・2015年)

何が起きたのか

水族館を経営するY社の管理職社員2名(Xら)が、1年以上にわたって女性従業員に対して、極めて露骨・卑わいな発言や侮蔑的な言辞を繰り返しました。Y社はこれをセクハラと認定し、Xらに対して30日間・10日間の出勤停止処分と降格処分を行いました。Xらは「処分が重すぎる」として処分の無効を求めて提訴しました。

最高裁の判断(平成27年6月8日)

「Xらが繰り返した発言は、女性従業員に強い不快感や屈辱感を与えるもので、執務環境を著しく害するものだった。Xらは管理職として部下を指導すべき立場にあったにもかかわらずセクハラを繰り返したものであり、出勤停止処分および降格処分は有効である。」

経営者へのポイント

  • 管理職によるセクハラは厳格に対処してよい:立場が上であるほど、より重い懲戒処分が認められます。
  • 会社が日頃からセクハラ防止の研修・周知を行っていたことも、処分の有効性を支持する要素となりました。
  • 就業規則にセクハラへの懲戒規定を明記し、研修を実施しておくことが重要です。

判例②:イビデン(セクハラ)事件(最高裁・2018年)

何が起きたのか

A社(子会社)の社員Xは、親会社Y社の事業所内で就労していたところ、同事業所の社員Bから執拗な交際要求や自宅へのおしかけなどのつきまとい行為を受けました。A社はXからの相談を受けながら何も対応せず、その後もつきまといが続いたためXはA社を退職しました。

退職後も被害が続いたため、Xの元同僚が親会社Y社の相談窓口に対応を求めましたが、Y社はA社を通じてBに聞き取りをしただけで「事実なし」の報告を受け、Xへの確認を行いませんでした。Xは「Y社が相談窓口体制を整備していたにもかかわらず適切な対応を怠った」として損害賠償を求めました。

最高裁の判断(平成30年2月15日)

「Y社の相談窓口は、グループ会社の事業場内での違反行為で被害を受けた従業員からの申し出があれば相応の対応をすべき信義則上の義務を負う。ただし、本件では、退職前にXが相談窓口に申し出をしておらず、退職後の申し出は事業場外の出来事に関するものであったため、Y社の義務違反は認められない。」

経営者へのポイント

  • グループ会社や関連会社も含めた相談窓口の整備が重要:親会社が窓口を設けている場合、その運用次第で責任が生じることがあります。
  • 相談窓口は「設置しているだけ」では不十分。被害者が実際に相談しやすい体制(秘密保持・報復禁止の明示など)を整えることが大切です。
  • A社が最初の相談に適切に対応していれば、退職も防げた可能性があります。初動対応が重要です。

判例③:アムール事件(東京地裁・2022年)

何が起きたのか

美容ライターのX(女性・フリーランス)は、エステサロンY1社の代表Y2から業務委託を受けて記事執筆等を行っていました。ところがY2は、施術中に性的な行為を行ったり、業務中にキスを迫ったり身体を触るなど、繰り返しセクハラ・パワハラ行為を行いました。また、業務を履行したにもかかわらず正当な理由なく報酬の支払いを拒否しました。Xは損害賠償と未払報酬の支払いを求めて提訴しました。

東京地裁の判断(令和4年5月25日)

「Y2の一連の言動はXの性的自由を侵害するセクハラ行為であり、報酬支払いを拒む嫌がらせはパワハラ行為にも当たり、不法行為となる。また、フリーランスであっても、実質的にY社の指揮監督の下で業務を行う立場にあった場合、会社はその者の生命・身体等の安全を確保する義務(安全配慮義務)を負う。Y1社はこの義務に違反した。」

経営者へのポイント

  • フリーランスへのセクハラも会社の責任となりえる:業務委託だからといってハラスメント対策が不要ではありません。
  • 2024年11月施行の「フリーランス保護法」でも、発注者側のハラスメント対策が義務付けられています。
  • 業務委託先・外部スタッフへの対応もハラスメントポリシーの対象に含めましょう。

判例④:国・人事院(経産省職員)事件(最高裁・2023年)

何が起きたのか

経済産業省の国家公務員X(生物学的性別は男性だが性同一性障害の診断を受け、女性として生活)は、職場での女性トイレの使用を求めましたが、省は「執務室の上下2階の女性トイレは使用禁止、それ以外の階は使用可」という制限的な処遇を実施しました。

XはこれをXへの不当な処遇として人事院に措置要求しましたが、却下されたため訴訟を起こしました。第一審は処遇の一部を違法と認め、第二審は適法と判断。最高裁が判断を下しました。

最高裁の判断(令和5年7月11日)

「Xが女性トイレを自由に使用することでトラブルが生じることは想定し難く、特段の配慮をすべき他の職員の存在も確認されていなかった。Xに対し、現処遇による不利益を甘受させるだけの具体的な事情は見当たらず、人事院の判定は裁量権の逸脱・濫用として違法である。」

経営者へのポイント

  • トランスジェンダー社員への配慮も会社の義務:「男女」という従来の二分法だけでは対応できない時代になっています。
  • 個々の状況を丁寧に確認し、形式的な規則より実態に即した合理的な対応が求められます。
  • LGBTQ+への配慮に関する方針・社内研修の整備が、今後ますます重要になります。

会社が取るべきセクハラ対策まとめ

以上の判例から、会社が取るべき対策を整理すると次のとおりです。

対策 具体的な内容
方針の明確化・周知 セクハラを許容しない旨を就業規則・ハラスメント規程に明記し、全社員に周知する
研修の実施 管理職・一般社員向けにセクハラ防止研修を定期的に実施する
相談窓口の設置・整備 社内・社外の相談窓口を設け、秘密保持・不利益取扱い禁止を明示する
迅速な事実確認と対処 相談があったら速やかに事実確認を行い、行為者への適切な懲戒処分を実施する
フリーランス・外部委託先への対応 社員以外へのハラスメントも会社の責任となりうることを認識し、規程の対象に含める
多様性への配慮 LGBTQ+に関する方針を整備し、個別の状況に応じた合理的配慮を行う

まとめ

セクハラ問題は「個人の問題」ではなく、会社としての組織的な責任が問われます。特に近年は、フリーランスやトランスジェンダーへの対応など、対策の範囲が広がっています。

「うちは大丈夫だろう」と思っていても、一件の訴訟で多大な損害賠償と社会的信用の失墜につながりかねません。

就業規則・ハラスメント規程の整備、相談窓口の設置、研修の実施など、日頃からの予防的な取り組みが最大のリスク管理です。


西宮市の社会保険労務士事務所・SR武田社会保険労務士事務所では、ハラスメント防止規程の作成・研修の実施・相談窓口の整備など、職場環境整備のサポートを行っています。お気軽にご相談ください。


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